ただいま花壇製作中です!

開始早々、てんてこまい!

「まずは、土を掘り起こして、やわらかくする作業からです。みなさん、スコップを土に深く差しこんで、下からかき混ぜるようなイメージでお願いします」


 恵くんの指示で、私たちは花壇の中に横一列にならぶ。二十人以上いるのに、花壇の半分にも届かない。学園の顔というだけに、めちゃくちゃ広いなぁ……。


「石はバケツにまとめて入れましょう。土の硬い場所があったら水をかけるので、言ってくださいね」


 よし。私だって、気合十分! なんたって、この作業での活躍にS組の存続がかかっている。


 だれより動いて、力にならないと!


 ざくざくざく……目の前の土をていねいに掘りおこしてから、一歩後ろに進む。そうやって、花が植えられる花壇に変えていく。


「……あーっ!」


 すぐ右から、叫び声! びっくりして横を見ると、樹ちゃんが目を見開いてふるえていた。


「どうしたの、樹ちゃんっ?」


「つ、つく姉ちゃん。大変だ……!」


 樹ちゃんは土の中に手を入れる。そして……


「カブトムシの幼虫を、起こしちゃった!」


 手のひらに、ぷっくり太って丸まっている幼虫を乗せて、私に見せてきた!


「うわぁああっ!」


 のけぞって、尻もちをつく。いきなり幼虫は、こ、心の準備が必要……!


「まだ土の中にいなきゃいけないのに、どうしよう……」


 昆虫も等しく愛する動物博士の樹ちゃんは、ピョンっと花壇を飛びだした。


「樹ちゃん? どこへ……?」


「幼虫にちゃんとした寝床を作ってあげないと! 生物委員会に行ってくるよ!」


 言うが早いか、樹ちゃんの背中は小さくなっていく。S組から、さっそくひとりが離脱した……。


「おい、つくね」


 今度は左から呼ばれる。振りかえると、太陽が軍手を外していた。


「オレ、抜ける」


「はいぃっ?」


「花壇作りなんて、わざわざオレがやらなくたっていいだろ」


 なんて言って、太陽も花壇を出ていこうとする。……ひょっとして。


「太陽。虫が苦手なの、まだなおってないんだ」


 ギク! と、太陽の体が固まる。私に背中を向けているけど、顔を見なくたって図星だってわかった。


「……恵士郎。水、運ぶ」


「あ、うん。よろしく、太陽」


 さりげなく仕事を見つけて、太陽は花壇の掘りおこし作業から逃げた! もう、これで離脱二人目っ?


「まったく、樹も太陽も、困ったものね」


 ふ、とため息まじりに言うミハル姉は……なんだか不思議な格好をしていた。


 ミハル姉はゴテゴテのゴーグルを装着していた。そのゴーグルは太いコードでスコップの持ち手とつながっていて、ガシャガシャ……とにぎやかな起動音を鳴らしている。


「それ、なぁに?」


「ふふん。これは、名付けて『スコープスコップ』」


「すこーぷ、すこっぷ?」


「土の具合をゴーグルに搭載されたAIが検知して、どれくらい掘りおこせばいいのか、全自動でスコップを動かしてくれるの。これで、だれでもかんたんにガーデニング名人!」


 自信作よ! と、ミハルお姉ちゃんは胸をはる。


「欠点としては、1分動かすのに本校舎1棟分の電力を使うことかしらね。ま、今日一日停電するだけのことよ」


 ……それって、一大事なんだけど!


 スイッチを入れようとするミハルお姉ちゃんを、ギリギリで止める!


「手で! 手でやろうよぉ!」


 なんて、私たちがわちゃわちゃしていると……


「竹鳥さん! S組の分担場所だけ、進んでいませんわよ!」


 七星さんから、雷が落ちた! 見ると、他のみんなはほとんど作業が終わっていて、私たちをじとぉっと見ていた。


 まずい。これじゃあ、逆効果……!


「ご、ごめんなさい! 樹ちゃんと太陽の分まで、私、やりますっ!」


 袖をまくって、全力モード! 腕が六本になったような気持ちで、花壇の土をやわらかくしていく。


「ひ……ひぃ! ひとまず、おわり……!」


 息を整えていると、ぽんと肩をたたかれる。ふりむくと、恵くんが立っていた。


「つくね。すごいね」


「うん。まだまだいけるよっ!」


 おどけて力こぶを作ってみせると、恵くんは肩をゆらして笑ってくれる。


「……つくね。ほっぺに土、ついているよ」


「え? あ、ほんとだ……」


「動かないで」


 恵くんが、私のほおに手を当てる。ひんやりした指が、ぐいっと土をぬぐってくれた。


「……!」


「ほら、とれた。……つくねはかわいいんだから、きれいにしていなきゃ」


 なんて、恵くんはやわらかに目を細めた。


 私ばっかり、顔がどんどん熱くなる……


「……あ、あはは! じゃあ、その、顔、洗ってくる!」

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