とりえのない私だけど
「ぷ、はぁっ」
恵くんの顔を直視できずに、私は飛ぶように水飲み場まで逃げてしまった。顔を洗っても、内側から火でもついているみたい。全然、おさまらない……。
落ちつけ。恵くんは平等に優しいから、あんな風に言ってくれたんだ。さっきの「かわいい」だって、ペットとか赤ちゃんに向けて言うのと同じはず。
「よっし! 気を取り直して、花壇づくりを再開……」
「ねぇ、竹鳥さん」
意気ごむ私の背後に、女の子三人組が立っていた。
中心の、サラサラのロングヘアーが目を引くのは……たしか、同じ学年の
「えぇっと、なにかご用かな?」
「あんまり、目立つことしないでくれない?」
井島さんが、ギロリと私をにらんでくる。
「め、目立つなんて、そんなつもり……」
反論しようとすると、うしろのふたりが私の言葉を押しつぶす。
「目立っているじゃん。あんなにさわいで、作業を遅らせてさ」
「そうそう。手伝わせといて、いいご身分だよねぇ」
井島さんが一歩、距離をつめてくる。私は二歩下がる。
「竹鳥さんの『S組を守りたいからガンバってます!』ってアピール、すごいよね」
「アピールじゃなくって、一生懸命やらなきゃいけないから」
「でもさぁ、私たち、S組解体に賛成なんだ」
それから井島さんはスマホを取り出し、投票アプリを見せてきて……【解体】ボタンを押した。
「だって、とりえのないだれかさんが、特別あつかいされなくなるから」
「…………」
なにも言わずにいると、彼女たちはつまらなそうな顔で身をひるがえす。
……言葉にしてぶつけられると、心がズシンと重くなる。
とりえのない、かぁ。本当のことだから、言いかえすこともできなかった。
正直、私がなんでS組にいるのか、自分でもわからない。ほかの4人みたいな特別な才能があったらいいのに、って、何度思ったことか。
でも、私はどこまでいっても私だから……うん、しょうがない!
私にだって、できることはあるはずだ。それを見つけるまでは、目の前のことに集中すればいい!
「ファイト、つくね!」
自分にエールを送ってから、走って花壇にもどっていく。
「こぶしが入るくらいの大きさの穴を掘って、下準備は完了です。片手で茎の根元を、もう片方の手で根っこを持って、穴にはめるようにして植えてくださいね」
広々とした花壇のちょうど中心で、恵くんが私たちに向けて花の植え方を教えてくれる。
「中心から外に向けて、順番に植えていきます。手持ちのジョウロで土を十分に湿らせて、穴を掘っていきましょう」
「試作品『ジャイロジョウロ』の出番かも……」
「ミハル姉、めっ!」
大砲みたいなジョウロを持ちだしたミハル姉を止めてから、私も花壇の中に入る。
みんなが作業しているし、花もどんどん植えられていく。まちがっても、折ったり傷つけたりしちゃダメだ。
「つくね。この花を、さっき植えた場所のすぐ横に植えてくれる?」
恵くんが、真っ赤な花びらの花を私に差しだしてくる。
「恵くん、これってなんていう花?」
「これは、ジニア。別名『百日草』と言って、夏から秋にかけて長く咲いてくれるんだ。花びらの色も豊富で、花壇にあざやかさを与えてくれる花だよ」
恵くんは、花の名前や知識をスラスラと教えてくれる。これは才能じゃなくって、日ごろの努力のたまものなんだろうな。
恵くんみたいな天才だって努力している。だったら私はもっと、がんばらなきゃ!
「こんな、感じで、どうかな……!」
教わった通り、ぽこっと作った穴に根っこをはめこむ。茎がまっすぐになるよう、ポン、パン! と、土を整える。
「上手だね。じゃあ、同じ色をもう一本。持ってきてくれる?」
「うんっ!」
一度花壇から出て、赤いジニアを持ちあげる。傷つけないよう、しんちょうに。
花壇の中心まで行くのに、井島さんのうしろを通らなきゃいけない。おじゃまはしないように、ちょっとだけ早足にして……
がつん、と、足がなにかに引っかかった。私は、バランスをくずしてしまう。
「わ……!」
両手が花でふさがっていて、手をつくこともできなかった。
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