根気の張りこみ
「はぁあ……」
古い体育倉庫の中で、大きなため息をひとつ。
校庭のすみっこにあるこの倉庫は老朽化がひどく、取りこわしが決まっている。外観もボロボロで、だれも近づかない。
いまの私にとってはサッカー部の練習をかくれて見る、絶好のスポットだ。
太陽の監視を言いわたされて、もう3日。
七星さんは恵くんと樹ちゃんと協力して、脅迫状の犯人の手がかりを探しまわっている。
そして、一番の容疑者を監視しておくのが……私の役目。
もうひとつ、ため息。やっぱりこんなの、気乗りしない。
「太陽のことを疑うなんて、やだなぁ……」
「しかし、必要なことです」
どこからか、声が聞こえた。
「うしろです」
くるりとふりかえる。
背後に、髪の長い女の子。照明が下から当たって濃いカゲの浮かんだ顔が、目の前に……!
「ぴ、ぎゃぁああああっ!」
古びた倉庫がミシミシと音を立てるほど、さけぶ!
「びっくりさせないでください。竹鳥さん」
カメラのライトをしぼって見えてきたのは……お人形さんみたいな整った顔。りこさんだった。
「そのセリフ、ぜったい私より先に言わないで……。ここで、なにを?」
「七星の指示で、監視の経過をうかがいにきました。穂村くんの様子はどうでしょうか?」
「どうもこうも……いつもどおりの活躍っぷりだよ、太陽のやつ」
私たちの視線の先で、太陽はこの日2点目のゴールを決めた。
昨日はバスケ部の練習試合に参加してスリーポイントシュートを入れまくっていたし、一昨日は柔道部の主将相手に華麗な背負い投げで一本を取っていた。
「さすがですね。まさに『万能のトップアスリート』……」
りこさんが、感心して息をつく。
たしかに、太陽ほど運動神経のいい人なんて見たことがない。ありとあらゆる運動部の助っ人として、引く手あまた。
この学園のだれもが一目置く、押しも押されもせぬスーパースター! なんて言われているけど……教室での太陽はぜんぜんちがう。
教室の角まできちんと掃除しろ! とか、机の中もきちんと整理しろ! とか、私にとってはなにかにつけて文句ばかりの、口うるさいヤツだ!
「……それでも、太陽が脅迫状の犯人だなんて、どうしても思えないよ」
言いながら、倉庫のすき間から太陽を目で追う。
ちょうど、太陽が相手をドリブルで抜きさったところだった。あとはボールをゴールのすみに流しこむだけ……
しかし、最後に抜かれた相手がうしろから太陽の足を引っかけた。
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