監視がバレた、次の一手

「あ!」


 バランスをくずした太陽は、グラウンドにたおれてしまう。ボールも外に出て、私たちのいる倉庫の方へ転がってくる。


「いまの、なによっ!」


 大声とともに、私は倉庫から飛びだした!


 サッカー部の全員が、なんだコイツって顔で、いきなり現れた私を見ている。


 周りの反応なんて、どうだっていい。私は、太陽を転ばせた背の高い男子につめよる。


「あなたよ、あなた! さっきのプレー、ボールじゃなくって太陽の足をねらうなんて、選手としてサイテー! 正々堂々、勝負しなさいっ!」


「部外者はだまってろよ」


 その男子は、チッ、と舌打ちをした。周りの部員たちも、意地の悪い顔をしている。


「これくらいの接触、よくあることだろ?」「そうそう。特別な天才サマには、ああでもしないとかなわないんだよ」


 そんな言葉に……堪忍袋の尾が切れた!


「あなたたち! そんな言いか……むぐっ!」


「落ちついてください、竹鳥さん!」


 りこさんが、うしろから私の口をふさぐ!


「ぷ、は! 落ちついていられないってば! あんなことする人にはひとこと言ってやらないと!」


「事を荒立てると、穂村くんの監視がやりにくくなるじゃないですかっ!」


 りこさんが、声を張りあげる。サッカー部の人も、下校しようとしていた人も、こちらを見ている太陽にも、しっかり届く大声だった。


「…………」


 太陽は、足を引きずって校庭を後にする。ひざをすりむいてしまったみたいで、赤い血がにじんでいる。


「太陽、待って!」


 その場で私だけ、太陽を追いかけた。


 太陽は校舎裏の水飲み場でひとり、キズを洗いながしていた。


「ケガ、平気?」


 声をかけても、太陽は私に背中を向ける。放っておけっていうオーラをひしひしと感じる……。


 それでも私は太陽の前に回りこんだ。ハンカチを取りだして、太陽のひざに当てる。


「つくね」


 名前を呼ばれて、顔をあげると……


 パチン! 鼻を指で弾かれた!


「ふぎゅぅ! な、なにすんのよ!」


「オレに構うな」


「……構うに決まっているでしょ。家族なんだから」


 家族。その言葉に、太陽は顔をしかめた。


「おまえが勝手に言っているだけだろ、そんなの」


「そうだよ。悪い?」


「どうでもいい」


 太陽は私の手をぐいっと押しのける。


「監視だろうとなんだろうと、好きにしろ。これ以上、オレを巻きこむな」


 足早に行ってしまう太陽を、私は再び追いかける。うしろから肩をガシッとつかんで、むりやりふりむかせる。


「しつこいぞ、つくね」


「ねぇ。明日って、予定ある?」


「明日は休養日だ。別にやることなんてない……」


「だったら!」


 私は太陽と目を合わせて、言う。


「明日、デートするよっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る