犯人の想い

真犯人

 取りこわしの決まっている旧体育倉庫。風が吹けばぎしぎし音を立てるようなここに、やっぱり近づく人はいない。


 ……犯人が姿を表すには、うってつけの場所だ。


「ふぅ……」


 この中に、S組を目の敵にしていた脅迫状の犯人がいる。大きく深呼吸をしてから……ガタ、と、戸を開く。


 ほこりっぽい倉庫の中でこちらに背中を向けている人かげが、ひとつ。


 私より頭ひとつ背が大きくて、浅黒く日焼けした肌。……顔を見なくたって、すぐにわかる。


「太陽……」


 私の声に、太陽はふりかえった。


 どうして? 私は、目の前の光景が信じられない。


 だって……太陽のほかにもうひとり、体育倉庫にいるのだから。


 その人も私を見て目を見開いている。驚きの表情までお人形さんみたいに整っている……りこさん、だ。


「太陽? りこさんとふたりで、なにを……」


「オレは、体育倉庫に呼びだされたんだ」


 太陽は私からりこさんに目を向けて、言いはなった。


「このに、な」


 ……りこさんが、脅迫状の犯人?


「そ、そんなわけないでしょ!」


 私は太陽をぐいっとひっぱる。


「りこさんは生徒会のメンバーで、私たちを撮影したり、協力してくれたり……いまだって犯人を突きとめようって、みんなで……!」


「そうやって一番近くにいたら、あやしまれないよな。それに……いつだってカメラを構えていた雲沢は、カメラに映らない」


 そうだろ? と、太陽は声を投げかける。


「植木鉢を落とす瞬間も、コマコからリボンを外す瞬間も、おまえがカメラを持っていれば映らない。あの瞬間を見ていたのは、おまえをあやしんでいたオレだけだ」


 事件の起きた場所にいた太陽は……りこさんを監視していた? だから、カメラに写ってしまったってこと?


 太陽はりこさんをするどい目でにらむ。対するりこさんは、前髪で目をかくしている。


「ねぇ、りこさん……本当に?」


 私の質問に、りこさんはうすく口を開く。


「どうしてですか。竹鳥さん、あなたはどうして、いつもいつも……!」


 無表情のきれいな顔が、初めてゆがむ。怒りに顔を赤くして、でもなぜか泣きだしそうなりこさんに……私は、なにも言えなくなってしまう。


 りこさんは深呼吸をくりかえすと……


「……そうです。私が、脅迫状の犯人です」


 はっきりと、私たちに告げた。

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