樹ちゃんの不思議な耳
まず私たちがやってきたのは、週末の憩いの場でもある、商店街。
「コマコは人をまったく怖がらないから、こういう場所にも来ていたはずだよ」
「これだけ人通りがあるんだもん。見かけた人はきっといる!」
私は、チラシを抱えて商店街に飛びこんだ!
「コマコちゃんを探しています! ご協力、よろしくお願いしまーす!」
道ゆく人にチラシを手渡して、お店の店主さんにはカベに貼ってもいいかを聞いてみる。
声をかけはじめた私だったけど……チラシはなかなか減らない。
なにより、商店街を歩く人に私が声をかけると、みんなギョッとした顔をして、そそくさと行ってしまうんだ。
「おい、あれ、S組だよな」「関わるな、なにが起きるかわからないぞ!」
この商店街だって学園の中。脅迫状の影響があるのは当然だ。でも、無視をされたり、渡したチラシを目の前でゴミ箱に捨てられたり……ちょっとへこむ。
さらには、商店街入り口の掲示板に戻ってきたとき……コマコちゃん捜索のチラシにわざと重ねて、脅迫状がはられていた。
『S組解体求む!』『S組が学園を乱す』『S組、いらない』
袖をひかれて、ハッとする。となりで樹ちゃんが、不安そうに私を見上げている。
「つく姉ちゃん? 平気……?」
「…………」
私は、S組をおとしめるビラの上に、コマコちゃん捜索のチラシをはってやった!
「残念、私はめげないよ! コマコちゃんを見つけるまで、こんなイタズラに負けないから!」
私の決意表明を聞いた樹ちゃんは、また明るい顔にもどった。
「でも、なかなかうまく進まないね。協力してくれる人がいないことには……」
そう言うと、樹ちゃんはポンッと手を鳴らした。
「じゃあ! 人じゃないみんなに協力してもらおう!」
樹ちゃんは、得意げに歯を見せて笑った。人じゃないみんな?
首をかしげる私の手を引いて、樹ちゃんはせまい路地に入っていく。その間、ずっとひくひくと鼻を動かしている。
においをかいでいるのかな? なんだか、いつも以上に子犬みたい……。
ずんずん進んでいく樹ちゃんは、行き止まりに到着する。
そこで私たちを待ちかまえていたのは……でっぷりと太った、ノラネコ!
周りにたくさんのノラネコを従えており、いかにもボスって感じ。迫力がある……。
たじろぐ私の前で、樹ちゃんはノラネコたちに頼みこんだ。
「ねぇ、きみたち! オレたち、コマコっていうネコを探しているんだ! 白黒のぶち模様で、ちょっと無愛想だけど、優しいネコ。この数日、見当たらなくて……」
それから樹ちゃんは、ノラネコたちに頭を下げた。
「オレは、ぜったいにコマコを見つけたいんだ。お願いします……!」
「お……お願い、します!」
私も樹ちゃんといっしょに、ぺこり!
不満げな鳴き声に包まれる中……たし、と、足に肉球が当たる。
ボスネコさんが、私と樹ちゃんの前まで来ていた。
「……にゃ。ぎにゃぁあ。ごろごろ……」
ボスネコさんの一声で、周りのノラネコたちがスクっと立ちあがる。
樹ちゃんはひざをついて、ボスネコさんの手を取った。
「ありがとう。オレも同じ気持ちだ。協力してくれたら、うれしい!」
「にゃぁン!」
ボスネコさんが、ぴょこっと前足をあげる。それを合図に、ノラネコたちはびゅんびゅんと走っていった。
樹ちゃんは、満面の笑みで私にふりかえる。
「つく姉ちゃん! みんなで、商店街の周りを探してくれるって! 裏路地や細い道は、ノラネコたちの力を借りよう!」
「……いま、なにがあったの? まるで、ネコたちとお話をしているみたいだったけど……」
「え、そうだよ?」
さらりと、樹ちゃんは言った。
「言ってなかったっけ? オレ、動物の言葉がわかるんだ」
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