樹のヒミツ

才能、進化。

 ふかふかのやわらかいなにかに、体が包まれている。ガケから落ちたはずなのに、どうして……?


 おそるおそる目を開ける。


 下には銀ヶ岳。横にはコマコちゃんとボスネコさん。そして前には、満点の星空。


 ……私はいま、空を飛んでいる!


「ゆ、夢? まさか……天国?」


『夢でも天国でもないよ、つく姉ちゃん』


 真下から、名前を呼ばれた。この呼び方をする子は、ひとりしかいない。


「樹ちゃんっ?」


 周りを見ても、樹ちゃんの姿は見当たらない。いったい、どこ……?


『いっしょにいるよ、つく姉ちゃん』


「いっしょ、って……?」


『いま、いちばん近くで……つく姉ちゃんを乗せているよ!』


 くるり、と巨大な鳥が顔をこちらに向ける。見ると、風になびく毛先の一点がヘアゴムでぴょこんと結ばれている。


 ついさっき拾って、私が結びなおしてあげた、ヘアゴム……!


「樹ちゃん、なの? 本当に……?」


『そうだよ。つく姉ちゃんを助けたいって気持ちで、いても立ってもいられなくって……空を、飛んだんだ!』


 動物と話ができるだけじゃなくって、動物に変身することができる。それも、私を乗せることができるような、大きな鳥にだってなれるなんて!


 これが、樹ちゃんの本当の力なんだ!


「すごい。本当にすごいよ、樹ちゃん……!」


『みんな、しっかりつかまってて!』


 言いおえると、樹ちゃんが翼を広げた。風が私たちを持ちあげて、夜空が近づいてくる。


 星の中に飛びこむみたいで、ちょっぴりこわくて……でも、ワクワクする。私は、鳥になった樹ちゃんの首にしがみつく。


『ねぇ、つく姉ちゃん』


 不安そうな樹ちゃんの声が、私の耳に届く。


『動物と話せるだけでも、人から遠ざけられたオレだけど。動物に変身するようなオレだけど……いっしょにいてくれる?』


 ……そんなこと、わざわざ聞かないでよ。


「どんなあなたも、私の家族。私は樹ちゃんを、ひとりにしてあげないよ」


 首に回した腕に、優しく力をこめる。


「いっしょに……帰ろう」


 私の言葉に、樹ちゃんは翼をはためかせる。私たちは夜空の中、風を切って進む。

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