さいごの別れに向きあって
「竹鳥さん! 生駒くん!」
登山道の入り口まで戻ってきた私たちを真っ先に迎えたのは、七星さんだった。うしろにはミハル姉、恵くんと太陽もいる。
七星さんが先頭に立って捜索隊を指揮してくれたみたい。
「みんな、えっと……ただいま」
「ただいま、ではありませんっ!」
するどく言った七星さんは歯を食いしばり、怒りをあらわにして……私を力いっぱい抱きしめた。
「い、痛いよ。七星さん……」
「この痛みが、わたくしたちの胸の痛みだと思いなさいっ!」
「……ごめん。本当に、反省している」
「もとは、オレがひとりで突っ走ったからです。本当に、ごめんなさい」
私のとなりで、樹ちゃんも深々と頭を下げる。
「言いたいことは山ほどあるわ」
と、ミハル姉が冷たく言う。これは、本気で怒っているときの声だ……。
「でも、ふたりが無事に帰ってきたことと、コマコを見つけたこと。まずはそれを喜びましょう。お説教はひと晩ぐっすり眠ったあとに、ね」
「は、はい……」
私と樹ちゃんがそろって返事をする。
「ほら、コマコもきちんとお礼をしなきゃ……」
と、樹ちゃんが振りかえったとき……コマコちゃんは山の中へ向かっていた。
「コマコ! どこに……」
「にゃ、ふ!」
止めようとする樹ちゃんの前に、ボスネコさんがドデンと立ちふさがる。コマコちゃんがまた山に入るのを、助けている?
「ど、どいてよ! コマコを連れて帰らなきゃ!」
「にゃ、ぎぃい」
「な、なにそれ……どういう意味だよっ?」
ボスネコさんの鳴き声を聞いて、樹ちゃんが取りみだす。みんなはちんぷんかんぷんだけど、私は樹ちゃんのそばに近寄って、耳打ちをする。
「樹ちゃん。ボスネコさんは、なんでコマコちゃんを行かせようとしているの?」
「……『ジャマするな、これがコマコねえさんの最期だ』って……」
さいご。その言葉に、ミハル姉が静かに言う。
「ネコは自分の死期を悟ると、行方をくらますことがあるの。まるで初めからそこにいなかったみたいに、消えるようにいなくなってしまうのよ」
「そ、そんな! 怪我や病気でも、治療はできるんじゃ?」
「延命措置はできるかもしれませんわ。でもコマコはわたくしたちよりずっと長生きで、立っているのもやっとの様子です……」
そのあと、七星さんは口をつぐんでしまう。樹ちゃんを見て、言葉を選んでいる……。
「いま、ここでコマコを連れもどすのは、コマコを苦しめるだけ。そういうことだろ」
言いきったのは、いままでだまっていた太陽だ。
「太陽兄ちゃん。そんなの……!」
「真実だ。目をそむけたら、一番つらいのは……樹、おまえだぞ」
太陽が強い口調で言うのを、いまは止められない。
「樹がコマコをだれよりも大事に思っていることは、みんな知っている」
そして恵くんが、樹ちゃんによりそう。
「だからこそ、きちんとお別れをしなきゃいけない。目をそらしちゃいけないよ」
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