強制転校なんて、お断り!
「え……えぇええーっ?」
私のさけびが、教室をゆらす! S組を解体? どういうことっ?
『言葉どおりの意味ですわ。この学園からS組をなくして……あなたたち5人には、別の学校へ転校していただきます』
「なくす? て、転校っ? どうして……?」
私は画面とおでこがぶつかるくらい、タブレットに顔を近づける。
『いまからお伝えしますわ』
パチン! 七星さんが指を鳴らすと、背後のカベが、パッ! と照らされる。
そこに書かれていた文字は……「S組解体の理由」?
『スライドを作成しました。プレゼンの基本ですわ』
すらいど? ぷれぜん? 私はただただあっけに取られている。
『まず、S組のみなさんのことを徹底的に調べさせてもらいましたわ』
七星さんが手をかかげると、うしろのカベに私たち5人の顔写真が映った。
『中等部3年、近衛ミハルさん。機械工学を修め、開発した発明品は数知れず。その研究成果が世界に認められる「若き発明女王」!』
「あら、どうも」
『中等部2年、雨寺恵士郎さん。活け花、彫刻に絵画など多くの作品を生み出し、新進気鋭のアーティストとして名高い「芸術の貴公子」!』
「そんなこと、言われているんだ……」
『初等部6年、生駒樹さん。動物たちと気持ちを通わせて、必ず心を開いてみせる「心が読める生物博士」!』
「ん? なんか、ありがと!」
『中等部1年、穂村太陽さん。サッカー、野球、空手に柔道。あらゆる競技のプロが太鼓判を押す「万能のトップアスリート」!』
「……ふん」
『そして、中等部1年、竹鳥つくねさん』
「は、はい!」
『あなたは……「ザ・平均」です!』
うっ! なんだかグサっときた。
『試験をやれば、全教科で学年平均点を記録。体力測定でも、中学1年生女子の平均値ぴったり。その他もろもろ……あらゆる数値が平均、平均、平均!』
「い、言わないでぇ!」
その他もろもろって、なに? どこまで調べているのっ?
『……と、1名をのぞいてS組のみなさんが特別な才能を持っていることは、学園にいる全員が知るところでしょう』
そこで、七星さんがキュッと眉毛をつりあげる。
『しかし! 特別な才能を持っているからといって、特別あつかいをされていいのでしょうかっ?』
カベには「S組へのいきすぎた特別待遇」なんて、でかでかとした文字が浮かびあがった。
『まずは、S組のみなさんが左手首に着けている、それですわ』
「あぁ……『Sウォッチ』のこと?」
ミハルお姉ちゃんが、自分の左腕を得意げにかかげる。腕時計型のウェアラブル端末(うぇあらぶる、は「体に装着する」っていう意味なんだって)が、左腕でキラッと光る。
「これ、私の自信作なの。GPS搭載で防水、耐久性もバッチリ。電話やアプリも使える優れもの……」
『学園内では、支給のスマートフォン以外の使用が禁止されています!』
「理事長から許可はもらっているわ。どうしても必要な理由があって……」
『それは前理事長の決めたこと! いまの理事長はわたくしですわ!』
どこまでも強気な七星さん。上級生のミハル姉にもまったく引かない。
『S組への優遇はまだまだあります! 施設の優先的な利用権、食堂や購買部での料金免除などなど……あなた方はこの学園の中で、あきらかな特別あつかいをされているのです!』
「くだらねぇ」
なんて、はきすてるように言うのは、太陽だ。
「要はひがみだろ? 特別あつかいが気に入らないから、なんて理由でクラスをつぶすのか?」
「ちょっと、太陽!」
私がたしなめるけど、太陽はプイッとそっぽを向く。
ごほん。七星さんがせきばらいをひとつ。
『理由は、それだけではありませんわ』
言い終えると同時に、画面が切りかわる。映っているのは、一枚の紙。
新聞の見出しを切りぬいて文章にした、不気味な怪文書だ。書かれている文字を、恵くんが読みあげる。
「『S組を解体しろ。彼らは銀ヶ島学園を崩壊させる』……」
『これはわたくしのもとに届いた、脅迫状ですわ。差出人は不明、複数ある脅迫状のすべてが、S組の解体を求めるものでした』
「そんなの、脅迫する人の方が悪いじゃん! S組をなくしていい理由にはならないよ!」
樹ちゃんが口をとがらせて、七星さんに抗議をする。
『もちろん、犯人は捜索中ですわ。しかし、問題の発端はS組にある。わたくしは理事長として、そう考えます』
七星さんは険しい顔を私たちに向ける。
『特別待遇でほかの生徒たちから不満も上がり、このような騒動の火種にもなる。学園の秩序にとって、S組は百害あって一利なしの存在ですわ』
きっぱりと言われて、みんなは口をつぐむ。
『ご理解いただけましたか? では、解体に向けた今後のスケジュールですが……』
「七星さん」
私が一番に、口を開く。
「家族とむりやり引きはなされることに、あなたはたえられるの?」
『はい?』
画面の向こうでは、七星さんが眉間にくっきりシワを寄せている。
『ご納得いただけるまで、S組がこの学園に不要である理由を、何度でも説明いたしますわ」
「説明なんか、いらないよ。どうせ、理解も納得もできないから!」
ガタン! イスをたおしながら、私は立つ。
トラブルの原因になる? 秩序のため? 学園に不要だから?
そんな理由で私たちをばらばらにする権利なんて、神様にだってあるはずない!
おなかに力を入れて、私は声を張りあげた。
「S組解体なんて、お断り!
『家族、ですか』
七星さんは、真剣な表情でうなずく。
『……竹鳥さん。ならば、証明してください』
「え?」
『これより1ヶ月、あなた方にこの銀ヶ島学園で起きている問題を解決してもらいます』
七星さんは、ビシッと指を突きつけてきた。
『S組があるからより良い学園になった! と、私たち全員に示してください。それができれば、S組は存続ですわ!』
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