七星の家族

 学園のみんなが、家族。たしかに私と同じ考え方で、七星さんの方がスケールが大きい。


「物心がついたころから、父と母は仕事で海外を飛びまわり、おじいさまは学園の運営で大忙し。わたくしはそんな家族を尊敬しています。が……」


 七星さんは、さみしそうに目を伏せる。


「同じ食卓を囲むこと、学校であった出来事を話すこと。枕をならべて眠ること。そんな家族との生活を、わたくしは経験したことがありませんでした」


「そう、だったんだ」


「しかし、学園に入学してからは生徒のみなさんと寝食を共にしてきました。ケンカやトラブルは日常茶飯事。いらいらするときも、顔を見たくないときもありました」


「……家族みたいだ」


 私が言うと、七星さんはパッと顔を輝かせた。


「えぇ、ともに暮らす2,000人の家族です! 困っている人に手をさしのべ、まちがった人はさとす。わたくしはここを、家族を大切にできる学園にしたいのですわ!」


 そっか。私がS組を大切にするように、七星さんは学園全員を大切に思っているんだ。


「じゃあ……学園の生徒たちが家族っていうのに、七星さんはS組をなくして、私たちを転校させようとするの?」


「家族のように思うからこそ、です」


 七星さんは学園用スマホを取りだす。


「S組のみなさんが特別な才能を持っていることは、重々承知しております。そして、その力を伸ばしていくためになにが必要なのか。わたくしなりに考えましたわ」


 そう言って、七星さんがスマホの画面を見せてくる。そこに書いてあるのは……『S組生徒 転校先候補』?


 最先端の研究設備のそろった名門校に、アーティストを多く輩出する美術の専門学校。設備の整ったスポーツの強豪校や、自然の中で動物と触れあう授業が有名な学校……。


 S組のみんなが、得意なことをのばせる学校ばかりだ。


「トラブルのもととなるS組を解体すべき、という考えは変わりません。しかし、それだけであなた方を転校させようなんて思いません」


 七星さんは学園用スマホをしまって、にっこりと笑った。


「飛躍のための道を探すことも、家族の務めでしょう? たとえここまでの活動で、あなた方といることが楽しくても……」


「えっ?」


「はっ! な、なんでもありません! はやく穂村くんの監視に行きなさい!」


 七星さんは顔を真っ赤にする。そんな彼女は生徒会長でも理事長代理でもない。


 私たちのことだって大切にしてくれる、大きな家族のひとりだ。


「……七星さんって、かわいいんだね」


「竹鳥さん! からかわにゃいでください!」


 動揺して言葉をかんでしまうにウインクを置いて、私は走っていく。


「つくねでいいよ。じゃあ、またね。七星!」


「こら! 廊下は走ってはいけませんわ! ……つくねっ!」

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