くずれる家族

「近衛先輩。あなたがおっしゃっていることは、真実ですか?」


 七星の質問に「もちろんよ」と、ミハル姉は大きくうなずく。


「地球外で捕獲した生物、地球に飛来した生命体を管理し、その超常的な生態を調査・研究する。それが、私たちの使命」


 ミハル姉は、私たちを順番に見おろす。


「天気をあやつる? 動物に変身する? 不死身の体を持つ? そんな地球人がいるわけないでしょう?」


 それに、と、ミハル姉は七星に目配せをする。


「前理事長は管理局からの要請に、S組っていうを用意してくれた。おかげで私は超人的な力を、一番近くで研究できた!」


「つまり、S組とは……」


 七星はぎゅうっと拳を作って、おし黙ってしまった。


「察しがいいのね、理事長代理さん」


 クスッと笑ってから、ミハル姉が高らかに言いはなつ。


「S組の『S』は、超常的スーパー特別スペシャルな、実験体サブジェクト。あなたたち4体は、私の大事な研究対象よ」


 ……目の前の人は、いったいだれ?


 優しくて、成績も良くて、発明品でみんなを楽しませてくれて……ちょっとだけぬけているところもある、ミハル姉。いつも私たちを見守ってくれた、お姉ちゃん。


 でも、ミハル姉はいま、私たちをなんて呼んだ。いままでの生活は、全部研究……?


「うそだ」


 私の言葉に、ミハル姉はけだるそうにふりかえる。


 私は、S組での思い出を頭の中に次々と浮かべる……!


「私はミハル姉に、よく宿題を教えてもらった」


「そうだったわね。一定の知能指数を保った方が、実験はやりやすいから」


「恵くんと三人で、お菓子を作ったこともある」


「あぁ。地球の食事が宇宙人にどのような変化をもたらすかの投与実験ね」


「樹ちゃんがケガしたときは、ミハル姉もいっしょに手当てしてくれたよね?」


「えぇ。被験体を失う危険があったから、細心の注意を払ったわ」


「太陽とどうでもいいことでケンカして、ミハル姉はいつも私をかばってくれて……」


「宇宙人同士も精神的な成長にはある程度の衝突が必要なのか、観察したかったの」


 最後に、ミハル姉は私を突きはなす。


「全部、私の研究のためよ」


 ……私はその場にへたりこむ。


「ひどいよ。私たちは、家族だって……」


「ひどい? 家族? やめてよ、つくね」


 あはは! と笑ったミハル姉は、私を言葉のナイフで切りつけた。


「地球人みたいなこと、言わないで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る