S組を守れ!

銀ヶ島学園S組

 銀ヶ島学園旧校舎で、私は目を覚ます。


 となりの教室から、みんなの話し声が聞こえてくる。……いま、何時?


「……う、あーっ! 寝坊したっ!」


 私、竹鳥たけとりつくねは布団から飛びおきる。黒板の上の時計は、朝礼の10分前を指している!


 通学時間0分なのに遅刻とか、ありえないっ!


 廊下の水飲み場で、顔を洗って歯をみがく。部屋にもどって髪をとかして、制服に着替える。指定の白銀のネクタイをしめるまで……8分32秒。新記録!


 ひとつとなりの教室に、がっしゃんがっしゃん音を立てて転がりこむ。


「ギリギリ、セーフッ!」


 我ながら、朝から余裕がなくってやかましい。


 こんな私を出むかえてくれるのは、4人のクラスメイトだ。


「つくね、おはよう。昨日の天体観測は、どうだった?」


 一番に声をかけてくれたのは、中学3年生、ふたつ年上の近衛このえミハルちゃん。通称、ミハルねえ


 毛先のケアまでバッチリな黒髪ロングヘアーをかきあげながら、足を組んで座っている。それだけで絵になる、私のあこがれの存在!


「すごかったよっ! 流れ星がたくさん、ビューンビューンって! ミハル姉も見ればよかったのに!」


「それで、寝坊したのか?」


 トゲトゲした声が、私にささる。


 つめよってくるのは、中学1年生、同い年の穂村太陽ほむらたいよう


 浅黒く日焼けた肌と、さっぱりさわやかな短髪の男子。だまっていたらなかなかなイケメンのくせに、ことあるごとに私につっかかってくる。


「つくね。今日の日直はおまえだろ? 花瓶の水の入れ替えと、朝食の準備。できているのか?」


「……で、できてない、です」


「ったく。なんのために、教室のすぐとなりをおまえの部屋にしたんだよ」


 太陽は、はぁっ、と聞こえるようにため息をつく。言いかえしたいけど、寝坊は私が悪いから、しゅんとちぢこまる……。


「まぁ、太陽。おさえておさえて」


 間に入ってくれたのは、中学2年生、ひとつ年上の雨寺恵士郎あまでらけいしろうくん。略して、けいくん。


 ウェーブのかかった栗毛と、フチなしメガネの奥に見えるブラウンの瞳が特徴的。いつでもおだやかで、マイナスイオンを発している癒し系のお兄さん。


 いまもほんわかしたオーラで、太陽のイライラをしずめてくれた。


「日直の仕事は、ぼくが代わりにやっておいたよ。つくねも、忘れていたわけじゃないもんね?」


 なんて、心が広い! 感動にうるうるしていると……


 グイ! と、最後のひとりがわたしの腕をひっぱった。


「つく姉ちゃん! おそいってば!」


 くったくなく笑っている少年は、小学6年生、ひとつ年下の生駒樹いこまいつきくん。私は「いっちゃん」って呼んでいる。


 笑顔のときにちらっと見える八重歯が、樹ちゃんのチャームポイント。ぴょんぴょこと元気いっぱいな感じは、かまってほしさに尻尾をふりまわす子犬みたい。


「おはよ。今日も元気だね、樹ちゃん」


「うん! 昨日ぶりだね、つく姉ちゃん!」


 弾んだ声で言ってくれるから、私も元気になってくる。


「みんな、おそくなってごめんなさい! まず、一日の始まりは……朝ごはん! みんなで食べよう!」


 私はみんなの顔を見わたすと、4人とも同時にうなずいてくれた。


 この4人が、私の家族クラスメイト


 苗字がバラバラで、家族? 学年がちがうのに、クラスメイト? そもそも、なんで学校で寝泊まりしているの?


 いろいろ、ツッコミどころはあるのかな?


 私たちは銀ヶ島ぎんがじま学園、S組。


 S組の『S』の意味は、ずばり……スペシャル! ここにいるみんなは学年に関係なく集められた、特別な星のもとに生まれた生徒なんだ!


 ……まぁ、正しくはみんな、だけどね。

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