太陽

心の方が、ずっと痛い

「つくねぇ!」


 太陽の声に、ふりかえる。あきらめていたはずの心が、じゅわっと熱くなる。


「太陽っ!」


「もう……死んでもはなさない!」


 太陽は勢いをつけて、海の中に飛びこむ! 海の中をスイスイと泳いできて……太陽はモーターで進む船に追いついた。


「太陽、太陽……!」


 私は、太陽に手をのばす……。


「さわるな、つくね!」


 海の中の太陽がこわい顔をして、私をにらみつける。


「なんでよ! はやく、こっちに……!」


 と、言いかえした瞬間……バチバチ! と、太陽の体に電流が走る。


「う、ぐ……」


 そのまま、太陽の体は海にしずんでしまった。


「太陽の言うとおりよ。感電するから、はなれなさい」


 ミハル姉が、はぁ、とため息をつく。


「泳いで追いつかれるなんて。さすがの運動能力だけど……実験体の輸送のじゃまよ」


 もうやめて! と、私がさけぶより先に……船のへりに、手がかけられる。


 太陽が、苦しそうな顔で海から上がってきた!


「……オレは、つくねを連れもどす。じゃまなのは、あんただ……!」


「あら、電流の強さをまちがえたかしら?」


 ミハル姉は余裕の表情で、Sウォッチを操作する。


 ……バチバチバチ!


「がぁあぁっ!」


 太陽が電気ショックに声をあげて……でも、船から手をはなさない。


「……なぜ? 一度だって、たえることなんてできないはずなのに」


 困惑するミハル姉が、何度も何度も太陽を苦しめる。


 でも、太陽はもうしずむこともなく……とうとう船に乗りこんで、私の前に立ちふさがった。


「どうして、立ちあがれるの! 不死身の体だから、痛みも克服したっていうの……?」


 いらだって声を荒げるミハル姉に、太陽は答える。


「いいや、痛い。ずっと気を失いそうだ」


「じゃあ、どうしてっ?」


「もっと、痛いんだよ」


 太陽はゆっくりと息を吸ってから、言った。


「つくねが連れていかれるって、考えただけで……心の方が、ずっと痛い」


 そう言って、太陽は私と手をつなぐ。


「つくね。オレを、信じてくれるか?」


「……あたりまえ、だよ」


 それ以上、言葉はいらない。私と太陽は、海の中に飛びこんだ。


 星の光を頼りに、海の中を進む。魚も追いこすスピードで進む太陽に手を引かれ、私は息継ぎをするヒマもなく……砂浜までたどりついた。


「はぁ、はぁ、はぁっ……」


 私と太陽は、波打ち際で寝ころがる。


「太陽。となりにいなくたっていい、なんて、もう言わない?」


「……言わない。オレは、つくねといたい」


 すなおな言葉におかしくなって、私たちは同時にぷっと吹きだす。手は、つないだままだった。

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