樹
空でもどこでも、いっしょ
「つく姉ちゃんっ!」
聞きなれた呼び方が、夜の海に響く。樹ちゃんが船を追いかけて、走ってきていた。
「樹ちゃん!」
「待ってて! いま、行くから!」
そう宣言して、樹ちゃんは海へジャンプする。
水しぶきは上がらない。樹ちゃんは体をカモメに変えて、空をすべるように飛んできた!
さらに、港にいたカモメたちも樹ちゃんのあとを付いてきて、船の周りを飛びまわる。
『つく姉ちゃんを守るために、協力してほしいって言ったら、みんなが来てくれたんだ!』
カモメの大群のどこかから、樹ちゃんの声が聞こえる。
でも、ミハル姉はまるで動じない。操縦室に入ると……船のスピードが上がった!
「少し荒っぽくなるけど、突きはなす。それで終わりよ」
『いいや。止める!』
樹ちゃんの声は……海の下から聞こえた。
ザ、バァァ……!
大きなクジラが、海面に姿をあらわす。このクジラが、樹ちゃんなんだ。
クジラの巨大な体で、樹ちゃんは船の行き先をふさぐ。これで、船も止まるしかない……。
『……う、ぁああっ!』
しかし、クジラになった樹ちゃんが悲鳴をあげ、海にしずむ。なにが、起きたの……?
ミハル姉は乾いた笑みを浮かべて、はきすてる。
「捕鯨用の銛もりがちょっと刺さっただけでしょう? 大さわぎしないで」
見ると、樹ちゃんのおなかのあたりに……太い銛もりが! なんて、ひどいこと……!
「さぁ。これで行けるわ、ね……?」
……ズシン、ズシン! 船が海の中から、なにかに体当たりされている。
「しつこいわ、樹! 武器はまだのせてあるのよ!」
と、海の中をのぞくミハル姉の顔が、恐怖にゆがんだ。
ザバァアッ!
水しぶきをあげて海から飛びだしてきた生き物に、私は目を奪われてしまった。
とがったキバにツノ、武器なんて通しそうもないかたいウロコ、そして、どこまでも飛べそうな大きな翼……!
樹ちゃんは、空想上の生き物……ドラゴンに、変身した!
『つく姉ちゃん、オレを信じて、飛んで!』
炎をはきながら、樹ちゃんは私にそう言った。
私は迷わず、船から飛びだす!
海面すれすれで樹ちゃんが私をすくいあげる。そのまま、高く高く飛びあがった。
「すごいよ、樹ちゃん!」
『へへ……オレはつく姉ちゃんを乗せていくよ。空でもどこでも、いっしょだよ!』
「うん……うん!」
ふりおとされないように、そして、いっしょにいるために、私は樹ちゃんの首にしがみつく。
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