選択の時
選んで。ここからは、キミの知らない物語だ。
窓の外は暗く、いつの間にか星空が広がっている。……そろそろ、行かなくちゃ。
保健室にならんだ3つのベッドに、みんなが横になっている。そのうちのひとつのそばに立って、私はボタンをおした。
「…………」
「起きちゃダメだよ。まだ、安静にしていて」
目を覚ました彼に、私は笑いかける。……よし、練習どおり。
「お別れ、言いに来たんだ」
彼が目を見開くけど、気づかないふりをして続ける。
「実は私、みんななんかよりずっとすごい才能があったんだって! その力を調べるために、島を出ることになったの! いやぁ、スーパーでスペシャルな存在っていうのも、楽じゃないなぁ」
腰に手を当てて、わざとおどけてみる。うまく、できているかな?
「そんなわけだから、みんなにはよろしく言っておいて! 私、もう行くね!」
これ以上は、無理。もう、なみだをこらえられない。
保健室のドアに手をかけると……手をつかまれる。名前を呼んでくれるけど、私は彼の方を振りむけない。
あぁ、もう。好きだなぁ。
この1ヶ月の中で、あなたへの気持ちは変わった。七星やみんなへの「好き」だけじゃなくなったんだ。
私の中の特別な「好き」は、あなたがいたから生まれた気持ち。
そして、この気持ちは……私だけのヒミツ。
「……こんなに好きだから、私はあなたを守りたい」
私は手を解いて、優しく彼を拒絶する。
「バイバイ」
*
真夜中の海の前に、ミハル姉が立っている。
「きちんと来てくれたのね? うれしいわ、つくね」
「…………」
「時間もぴったり。さぁ、行くわよ?」
先に船に乗ったミハル姉が手を貸してくるけど、私は無視してひとりで乗りこむ。
「嫌われたものね。まぁ、実験対象に好かれてもしかたないけれど」
ミハル姉はおかしそうに笑いながら、操縦席の機械をいじっている。
「自動運転システムで、本部直通の港まで到着するわ。さ、船室に入って」
「……イヤだ」
「わがままを言わないで。中に入っていれば安全だから……」
「イヤ」
私は、船のうしろに座ってひざを抱える。こんなちっちゃな反抗しかできないけど……ミハル姉の思いどおりになりたくない。
「わかったわ。スピードを出さない安全運転モードにして、ゆったり行きましょう」
はぁっとため息をつくミハル姉がまた操縦席に入る。
……ガタン、ガタン、と船がゆれ、海にでる。
銀ヶ島がはなれていく。みんなと……あなたともう、会えなくなる。
歯を食いしばって、ひざに顔をうずめる。これでみんなを守ることができたんだ。これ以上、なにも望まない。
でも、でも!
「……いっしょに、いたいよ」
それは、だれにも届かないはずのお願いだった。
この世界でただひとり、答えてくれたのは……
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