才能、覚醒

 頭が真っ白になる。息もできない。


 目の前で、倉庫は跡形もなくつぶれている。あと数秒おそかったら……私はこの下にいた。


「太陽が、太陽が……」


 よろよろと倉庫に近づくと……腕をつかまれる。


「あぶないよ、つくね!」


「つく姉ちゃん、行っちゃダメ!」


「恵くん……樹ちゃん……」


 音を聞きつけて、みんなが集まってきていた。


 血相を変えた七星が、学園用スマホのカメラをかまえる生徒をかき分ける。


「りこ、つくね! 説明しなさい、なにが起こりましたのっ?」


「わ、私のせい、なんです! 棚がくずれた衝撃で、倉庫がたおれて……穂村くんが、この下に!」


「…………!」


 りこの言葉から緊急事態だとさとった七星は、声を張りあげる。


「みなさん、下がりなさい! 二次崩落があるかもしれません!」


「北斗さん、ぼくは病院に! 救助するには、消防にも……!」


「オレが電話する! すぐ来てもらって、太陽兄ちゃんを出してもらわなきゃ!」


 恵くんや樹ちゃんが太陽救出に動きだす。みんながひっきりなしに動いているなか、私は……


「太陽の、ばか」


 立ちあがって、いつもみたいに言ってやる。


「ばか、ばか、ばーか! ……ほら、言いかえしてきてよ! さっさとそこから、出てきてよっ!」


 なにが、となりにいなくたっていい、だ。


 そんなこと、私は望んでいない。あなたがいない明日なんて静かすぎて、さみしくて……たえられない。


「行ってはいけませんわ! つくね!」


「お願い、太陽。いかないで……!」


 はなれたくない。その一心で、七星に抱きかかえられながら、私はガレキに手をのばす。


 ……がら、がら。ガレキがまた、くずれはじめる。


 でも、下から持ちあげられているような、不自然な動きだ。


 ガシャン! と、ひときわ大きな音のあと、ガレキをおしのけて現れたのは……


「……太陽」


 太陽がボロボロの姿で立っている。


 周囲の生徒が悲鳴をあげるけれど……ケガは、またたく間に治っていく。


 回復が速い、なんて次元じゃない。こんなの、まるで……不死身の体、だ。


「……ありえない」


 となりにいたりこが、ポツリとつぶやく。


「命に関わる傷が、あんな一瞬で治るなんて……!」


 その言葉を皮切りに、周りからは恐怖に満ちた言葉が飛んでくる。


「なんなんだよ、あいつ!」「本当に人間?」「ば、バケモノ……!」


 とうとう逃げだす生徒もいて、学園は大混乱。みんなが、太陽からはなれていく。


 でも、私だけは太陽のもとにかけよった。ガレキの山からおりてきた太陽の手をにぎる。


 とても、とても……あったかい。


「……つくね。オレは……」


「うるさい」


 太陽の言葉をさえぎる。余計なこと、言わないで。


「太陽が、生きている。いまは、それだけを感じさせて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る