あなたと、あなたが作る笑顔のために

 立ち上がって、私は恵くんに向きなおる。


「恵くん、やめてっ! 私はもう、大丈夫だから!」


 さけび声は消されて、恵くんに届かない。風の勢いが、増していく。


 私は花びらが飛びかう竜巻の中を歩いていく。満足に息もできず、土が私の頰をべちゃりと汚す。


「む、ぐ……!」


 手の甲で顔をぬぐうことすらままならない。ヘアゴムが風に持っていかれて、三つ編みおさげもほどけてしまう。


 でも、止まらない。一歩ずつ、恵くんに近づいて……目の前まで、たどり着く。


「恵くん」


 恵くんは答えない。苦しそうに呼吸をしていて、私のことが見えていない……。


 だったら、無理やり視界に入るまで!


 私は恵くんの頰を、ガシ! とつかむ。お互いの鼻がぶつかる距離で……


「私を、見て!」


 風なんかに負けない大声で、叫んだ。


「…………」


「だめだよ、恵くん。お花が、傷ついている」


 私は、ぐしゃぐしゃになって見る影もない花壇に目を向ける。


 ほとんどの花は風と雨のせいで折れてしまっているけど……二輪の花が、竜巻に負けないよう寄りそって咲いている。


 私はその花にならって、恵くんとの距離をゼロにする。


「恵くんは、お花で人を幸せな気持ちにできるんだから。これ以上、傷つけちゃだめ」


 私は、恵くんの背中に手を回した。いつもみんなのお兄さんでいてくれる恵くんを、なだめるように……背中をさする。


「恵くん。花壇、またいっしょに作ろう」


 ……心臓の音が、聞こえる。恵くんは深呼吸をしてから、私に言う。


「つくねは、ぼくの力がこわくないの?」


「こわいわけ、ないよ。私を守ってくれた、優しい力だもん」


 竜巻の勢いが弱くなる。もう、大丈夫。抱きしめる姿勢から、はなれる……


「動かないで」


 恵くんは私の腕をつかむと、顔を近づける。


 ……指でほっぺについた土を、ぬぐってくれた。温かさに安心して、私は笑いかける。


「おかえり、恵くん」

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