第34話 今日も何とか陽は昇る


東部街区は混沌の極みであったが、教皇ミレニアムが、近衛騎士団を連れて現着したのを受け、大司教ペンティアムも新たな戦力としてサリエラを伴い合流した事で、一応の落ち着きを取り戻しつつあった


 何しろ、合成天使のサリエラは実体を持つ為、対人にも対物にも対処可能

 方々で発生していた火災も、サリエラが建物を破壊して回り、延焼を防ぐ事で鎮火に向かいつつあった


 しかも、空を飛べ、自ら聖女と同等の聖魔法を行使出来る為、魔力とスタミナの回復さえ出来れば、まさに人外の働きぶりであった


「サリエラは良くやっている様だな」


「はい、その為に用意致しましたので、当然の結果かと」


「フッ、謙遜も過ぎると嫌味だぞ?

 此度のペンティアム殿の働きには感謝しても、しきれるものでは無い」


「いえ、パワーマック伯爵父娘も、元勇者インテの消息すら掴めておりません

 奴等の目的が分からぬ以上、決して、安心出来るとは言えません」


 そうなのだ

 聖都がここまで破壊されて、果たして魔王封印に、どの様な影響が発生するのか?

 ペンティアム自身にも想像出来なかった


 (それに、魔剣の存在と言い、

 第三者の介入と言い、不確定要素が多過ぎる)


 教皇ミレニアムとは情報共有したとは言え、魔剣の存在は、未だ公けにするには危険過ぎた


 只でさえ、聖都が燃えて人心が不安定な最中、余計な火種を放り込む必要は無い


 万が一、人々の篤い信仰心が瓦解しようものなら、折角施した魔王の封印は、意味を成さなくなってしまいかねない


 ペンティアム以外には、理解すら不可能だったが、マイクロブラックホールに封印した「魔王」と「調和の月の精霊龍」が暴走したら、どんな事態を引き起こすか、全く想像すらつかないのだった


 (ミカエラには申し訳ないけど、魔剣の探求もお願いしないといけないかもね)


 愛弟子の苦労を、どうやって労おうかと思案するが、浴びるほど酒飲ませりゃ良いか、と考えるのを止めた


 そう言えば、狙撃犯を追跡させてから、連絡が途絶えてたっけな


 まぁ、あの子に限って心配は無用だとは思うけど……何しろミカエラは特別だ

 赤子の頃から、自ら手塩にかけて大切に育て上げた宝物だ


 多少、思慮に欠ける部分も、可愛らしいと言えば、そう見えると言うものだ


 (あの子と聖剣の組み合わせなら、例え神でさえ相手取れるでしょうね……)


 親バカかな?と自笑していると、サリエラが戻って来た


「只今、戻りました」

 

「あら、お疲れ様」


「貴族街区の火災は、ほぼ鎮火してます

 後、暴徒の鎮圧も既に完了していますので、自警団に引き継いでおきました」


 サリエラには、極力暴徒を殺すな、と言い付けてある

 聖魔法で、眠らせるなり、無力化して自警団に、引き渡していた


 魔薬汚染で正気を失ったなら、おそらく元に戻す見込みは残っている筈だ


 ……ミカエラには手加減が無理だろうから、問答無用で殺して良いとは言ったが


 あの子なら、本気で聖都中の人間を鏖殺しかねない、何しろ沸点が低い


 考えるより先に、相手が死んでる


 それでも絶対に悪人以外には手を出さない


 そう言えば、サリエラには善悪の判断って出来るのかしら?

 この子は、何しろ経験が少ない

 なんと言っても産まれて間もないのだ


 私の指示が無ければ、善人を助ける事も、悪人を滅する事も出来ないだろうな


 でも、実体が在るお陰で、学習する事は可能だ


 時間をかけて育てて行ければ良いのだけど、その時間がどの位、残されているかが分からない


 (鍵はやっぱり魔剣の存在よね)


 やっと、黒煙が晴れた朝焼けの空を見上げながら静かにため息を吐いた



 

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