第56話 魔女と花嫁


「……えーと」

 

 再び目覚めると、西方支部教会の自分の部屋だった

 窓と壁が真新しく成ってるから、間違い無い

 クレセントが酔っ払って、ブレスで大穴開けてくれたわよね


 ベッドから降りると、身体に異常が無いか確認してみる


「……卍丸?」


 掌中に卍丸が顕現する

 聖剣召還も普通に出来るみたいね


 室内で軽く素振りをして、どこにも異常が無い事を確認出来た

 あとは……ミ


 バタンッ!


 勢い良く扉が開け放たれると、デュオが飛び込んで来た


「ミカエラ様っ!?」


 凄い勢いで、ボディアタックをされるけど、優しく受け止める


「死んだとっ、死んだのではないかと……」

 デュオが泣き崩れるのを支えて、背中を撫でてあげる


 そうか

 私はあの時、魔王と一つになり、自分の魂を卍丸の光の刃で貫いた


 おそらくだけど、光の刃に吸収されて消えたんじゃ、ないかな?


 そりゃ死んだと思われても仕方無いかぁ


 あれ?

 その後、どうしたっけ?


 確か、不思議な花園で変なお姉さんと一緒に……


 ……

 …………

 ルシフェラとお茶したんだ!

 え?マジ?夢?


「夢では御座いません」


 ん?誰?

 振り返ると、何故かベッドの上で、服が乱れて色々と見えちゃイケナイ部分が、見えちゃってる一本角のメイドさんが、赤面していた


 あれ?

 どういう状況?


「ミッ、ミミミミミカエラ様?」


 えっ?あっ、いや、違くて……あれ?何でデュオに言い訳してるんだ?私


「酷いですわ、ミカエラ様

 昨夜は、あんなに激しかったのに」


 一本角のメイドさんが、服と髪の乱れを直しながらベッドから降りると、メイド服にしては、何だか随分と丈の短いスカートの端をつまみ上げて挨拶する


「初めまして、デュアルコア様ですね?

 私は、この度ミカエラ様付きのメイド兼、花嫁として参りました、アガリアと申します

 どうぞ、末長く宜しくお願い申し上げます」


「ミ、ミカエラ様のお世話係は、間に合ってますから!メイドなんて要りません!

 それより、花嫁って何言ってるんですか!

 大体、女同士でそんな……そんな?」


 デュオ、少し落ち着こう?

 

「ミカエラ様は、どうしてそんなに落ち着いてられるんですか?

 まさか、本当に花嫁……そんな、私が居るのに!」

 

 んん?デュオ?何言って……

 (不潔です、ミカエラ様!)

「え?ミカ?」

 声に応えて、守護天使のミカが顕現する


「ミカエラ様!魔王とまぐわったと思ったら、何やってんですかぁ!?」

「ま、まぐわった?」

 

 いや、その言い方、ちょっと違うと思う

 ほら、デュオが誤解してるから

 

「魔力的な存在でしか無いとは言え、正妻の座は私の物ですから!誰にも譲りませんよ?」

 

 ちょっと、ミカ?何言ってんの?

 

「大丈夫です、

 私は第二婦人の立場でも、一向に構いません」

 

 えーと、アガリアさん?


「私だって、一生、ミカエラ様にお仕えさせていただく積もりですから!」


 いや、デュオ、重いってば

 アンタ達、ちょっと一度落ち着こう?


 キイイイィィィーーーーンズドンッッ!!

 地響きがする

 嫌な予感しかしないわね


 ガッシャアーーン!!


 折角デュオが手配して、直してくれたばかりの窓をブチ破ってクレセントとセレロンが飛び込んで来た


「ミカエラ!生きてたのね!?」


 クレセントも私に飛びかかり、抱き付く


「心配かけて、ごめんね?」

「本当よ!

 もうっ、死んだのかと思ったら突然気配が復活して、ビックリしたわ!」


 そうだ、この子は魔力だけで無くて、気配を感じられるんだっけ


「あの状況から生還するなんて、流石は私の妹ね!お姉ちゃんとして、鼻が高いわ!」


 セレロンも現れて、私の頭をハグしてきた

 深い谷間に埋まって息が出来ない


 バタンッ!


「ミカエラ!無事だったか!」


 乱暴にドアを開いて、師匠とサリーがやって来た

 どうやら室内が満員で、外に転移したみたいね


 何故か師匠までがハグしてきて、照れるわね

 サリーが背中から抱き付いて、サンドイッチだわ

 何やってんだろ、私


「取り敢えず、あの後何が有ったのか聞かせて欲しいわね?」


「えーと、魔王の魂と一つに重なり合って、光の刃で、自分の魂を貫いて……」


「それだ!光の刃に吸い込まれて消えてしまったから、死んでしまったのかと思ったわ!」


「でも、その後の事は、正直、自分でも良く分からないんです

 目が覚めたら、花園に居て、ルシフェラと名乗る変な女とお茶しました」


「ルシフェラだと!?」

 師匠の眼が見開かれる


「変な女呼びはともかくも……ルシフェラ様が、ミカエラ様とアシュタローテ様の魂を、「狭間」にてお救いに成られたのです」


「誰だ?

 むっ、魔族か?貴様」


 部屋の中が、一気に殺気で充たされる

 待って、ちょっと落ち着こう


「隻眼の魔女ペンティアム様、皆さま方、お初にお目にかかります

 私、ルシフェラ様よりミカエラ様の身の回りのお世話を仰せつかりました、アガリアと申します

 ミカエラ様の花嫁として、以後、末長く宜しくお願い申し上げます」


 クレセントとサリーの殺気が爆上がる


「これは丁寧な挨拶、痛み入る

 アガリアと言うと、第三位階の悪魔だな?

 と言うか、花嫁とはどういう事だ?」


「言葉通りでございます

 これからは、ミカエラ様を我が主人として、生涯お仕えさせて頂く所存でございます」


 アガリアさん、貴女のご主人はルシフェラ様では無いのでしょうか?


「人間ながらアシュタローテ様をお救いになられた、貴女様に大変興味を惹かれました

 ルシフェラ様には、ご承知頂いておりますので、ご安心下さい」


「むう、つまり、我々に敵対する意思は無いと言う事か?」


「はい、勿論でございます

 ミカエラ様が人類を殲滅せよと仰せなら、その限りではございませんが……」


 冗談じゃ無いわよ

 そんな事考える訳無いでしょ?


「しかし、地上は魔界と違い、魔力が希薄だぞ?貴様達魔族には到底、暮らし難い環境ではないのか?」


「アシュタローテ様が顕現された様に、この聖都は夥しい魔力が集積されておりますれば、この街から出なければ何の問題も御座いません」


 なるほど、つまりは私次第って事か


「ちょっと、アンタ!突然出てきて勝手な事言ってんじゃ無いわよ?」

「その通りです!ミカエラ様の花嫁の座は譲りませんよ!」


 何故か、クレセントとサリーがヒートアップしてるわ


 アンタ達、何言ってるのか分かってる?



 分かって無いのは私だけだった



 

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