第52話 命散って


魔剣の「核」を飲み込んだ私は、そのまま魔王に押し倒された


 魔王は少し慌てた様子で、私の口の中に手を突っ込もうとするけど、冗談じゃ無いわね

 口に入れられた指を、思い切り噛み千切ってやると、流石に飛び退いた


「ぺっ」

 魔王の指を吐き出すと、丁寧に踏みつけて潰してやる

「!!」

 おー、怒ってる、怒ってる♪

 でも、すぐに新しい指が生えてるじゃん

 

糞勇者は本体の「核」を失ったから、多分もう復活しないんじゃないかな?しないと良いな


 魔剣を失った魔王は、肉弾戦か魔力攻撃しか手が無くなった

 

 でも、悪いけど肉弾戦も魔力合戦も、負ける気はしないけどね!

 何しろ、私の中には卍丸とミカの魔力が漲ってる!早く魔王を倒せと、爆発しそうよ!


「ドクン!」


 は?なに?


 咄嗟に飲み込んだ、魔剣の「核」が疼く


「ドクン!ドクン!」


 苦しい……不味い、魔王が迫るのに!?


 魔剣の「核」が私の中を浸蝕し始めている?

 神経系を、毛細血管を、筋肉細胞のひとつひとつ迄、おぞましい呪いで食い潰している


 だけど、私の中の卍丸とミカが、それを何とか阻んでいるのが分かる


 苦しい!息が詰まり眼も開けていられない


 思わず踞ってしまう私に近寄った魔王は、私の髪を掴むと、眼の高さに引き上げる


 クソッ、身体が言うことを利かない!


 魔王は、私の様子を観察し終わると、無造作に足元に放り出し、師匠達の方を向く


 舐めやがって!

 コレさえ無ければ、テメーなんて秒殺だコノヤロー!


 心の奥に、糞勇者と、ハモニアルの意識が入り込んで来やがる……ヤメロ!これは私の身体だ!


 ドス黒い感情の奔流に自分の意識が飲み込まれそうになるのを、必死に抗う


「ミカエラ!」

 ラファ……姉?

「しっかりなさい!貴女しか居ないのよ?」

 

 糞勇者に騙され、お腹の赤ちゃんまで利用され殺されたラファ姉は、復讐の為にアンデッドにまでなって甦った

 その悔しさ、無念がどんなにか辛く、悔しいものか私には理解出来ないけど、私がラファ姉を信じる気持ちは揺るがない!


「私に、ケリを着けさせて」

 ラファ姉はそう言うと、私に口づけをしてきた


 (なっ、何してるんですか、この人?)

 んっ、んうーーっ!

 ミカ、お願いだから黙ってて?

 身体が思わずラファ姉を抱き締めてしまうじゃない!感じ過ぎちゃって止まらなくなるから!


「お姉様!?」

「な、何してんのよ?アイツ?」

「ちょっと!ずるいですぅ」

 クレセントとサリーが何か言ってる


 ああ、ラファ姉の舌が入ってきた

 思わず、私もねぶり返す

 互いに舌を絡ませながら、ラファ姉が私の中の魔剣の核を吸い込んでゆく

 脳の中で閃光が煌めく

 全身を快感に支配され、意識が薄れかける


私を蝕んでいた魔剣の核が、次第に引き剥がされ、ラファ姉の体内へと吸い込まれてゆくのを感じる


 ん、んんんーん……んっ!

 ラファ姉を抱き抱える力が増す

 あまりの快感に、思わず脚まで絡めてしまう

 (ちょっ、ちょっとーやり過ぎですぅ)

 うんーーんっ!んんんっ!

 馬鹿ミカっ!ちょっと黙ってて?

アンタが反応するとヤバいのよ!

 アンデッドって少し体温が低いのね

 知らなかったわ


 やがて、魔剣の核は完全にラファ姉の身体に吸い込まれていった

 ラファ姉の唇が離れる

 何か少しだけ物足りなさを感じてしまった


 ボーと放心している私に、ラファ姉が囁く

「聖剣は貴女を選んだ、でも貴女は未だ聖剣を使いこなせていないわ」

 

 え?

 卍丸と一体と成っても未だ足りないの?

 

「今、貴女の魂と繋がった時に分かったの

 聖剣の真の姿を解放してあげなさい?

 そうすれば、貴女に斬れないものは無いわ」


「卍丸……」

 身体に浸透した卍丸が反応する

 真の姿

 どんなものか分からないけど、ラファ姉には見えたのだろう


「卍丸、お願い、応えて?」


 瞬間、身体中に浸透していた聖剣が抜けて、掌の中に顕現する


 聖剣鎧装は解けたけど、卍丸の新しい姿が掌中に有った

 柄部分だけの聖剣に魔力を流すと、光の刃が現れる


「ミカエラ……貴女にお願いがあるの

 聞いてくれる?」


 なに?改まって


「その剣で、私を貫いて」


 え?何言ってるの


「わたしの中で魔剣が、勇者が私を支配しようと暴れているわ、

 このままじゃ、私は私で居られなくなる……

 そうなる前に、私が私でいられる間に貴女に殺して欲しいのよ、ミカエラ」


 出来ないよ!


「お願い、ミカエラにしか出来ない事よ?」


 そんな!


「アンデッドと成ってしまったけど、私の魂は女神様に捧げたいの、聖女ラファエラとして、最後の望みよ……お願い!」


 涙を流して懇願するラファ姉の顔が、一瞬インテの顔に見えた


「早く!時間が無いわ!」


 私は泣きながら、ラファ姉の中に見える魔剣の核を光の刃で貫いた


「ありがとぅ....大好きよミカエラ」


 魔剣の核と共に光の粒子となり消えてゆくラファ姉は、いつもの優しい笑顔だった


 魔剣の魔力もラファ姉の存在も、卍丸の光の刃の中に吸い込まれた感じだ


「うわああっっーー!糞があ!」

 

 やりきれない想いに思わず叫んでしまう


 ラファ姉は死んだ


 もう甦る事も出来ない!

 私が殺してしまった!


「テメーのせいだぁっ!」


 師匠達に迫っていた魔王が私に振り返る


 大粒の涙をながしながら、啖呵を切り自分を鼓舞する


「世のため人のため、私のために正義を執行する!キッチリ落とし前着けてヤルから覚悟しやがれ糞魔王!」 

  

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