第51話 揺れる想い
ミカと同化した私は、以前とは比べ物にならない魔力の充実を感じていた
空を飛んで魔王に突っ込む
バキッ!
ガードした腕を貫いて、顔面にグーパンをめり込ませる
ドキャ!
フラ付いた顔に、回し蹴りを食らわして、勢いのまま一回転すると、踵落としで魔王の頭を地面に埋めてやる
ドドドドドドドドドドドドドド!!
マウントをとったまま、殴り続けると、魔王の手の中に魔剣が現れた
ギャリーーーンッ!
飛び退きざま逆袈裟に斬りかけられたが、卍丸のお陰で無傷だ
距離をとり、動きの止まった魔王を四人で取り囲む
魔剣が魔王の魔力に反応して怪しく輝く
卍丸を纏っている私ならともかく、クレセントとサリーは斬られたらヤバいかも知れない
セレロンの鱗は固そうだけど、魔王の魔力で強化されたっぽい魔剣も侮れない
問題は魔王の剣技が如何程のものか
確かめるのは私の役目よね
両拳を構えると、軽くステップを踏んでタイミングを計る
卍丸を剣では無く、身体全体に纏っているから、格闘技で対抗するしか無い
拳はガントレットがそのままメリケンサックに変形していた
これで殴ったら、さぞかし痛いだろう
ヒュッッ!
神速の突きが、卍丸で覆われていない顔面目掛けて放たれる
しかし、突きを放つ動きを読んでいた私は、余裕で避けると、カウンターを叩き込む
バカッ!ドスッ!バキャッ
左フックを顔面に、腹に膝蹴りを食らわして、下がった顎にアッパーを打ち込んだ
普通なら、これで倒れるところだが、流石に魔王は耐えた
魔剣で斬りかかってくるが、身体の動きは全て見透せる
次にどう動くか、息遣いや重心の移動、足先の向き、筋肉の動き方を観察していれば、剣先を避けるのは容易だ
剣技に関しては、まるで普通の人間並みだ
それにしても硬いな
卍丸のメリケンサックで殴り付けてるのに、まるで効いて無い
物凄く凝縮した魔力の塊を殴ってるみたい
サリーの剣やクレセントのパンチじゃ、分が悪いわね
蚊が刺したほどにも感じないだろうし、例え傷付いても、即座に治りそうだ
何と言うか、神気に近い物を感じる
凄く邪悪だけど
これが魔王……以前の私ならビビって小便チビってたかもね
でも、今は違う
聖剣卍丸に、ミカと一体になった私は無敵よ!
ミカの膨大な魔力が身体中に溢れているのが分かる
卍丸の聖気が隅々まで染み渡るのも分かる
魔王の動きも読める
これで負ける訳が無い!
と、魔王が魔力を凝縮させている気配を感じる
恐らく、強力な魔力攻撃を繰り出す積もりだろう
「させないわよ」
先を読んで背後に回り込むと、背中に蹴りを入れて吹き飛ばし、倒れる所を前に回り込んで顎を蹴り飛ばす
建物を壊しながら数ブロック先にブッ飛んだ魔王を追って、セレロンが飛び込み、回転しながら尻尾を叩き込んだ
ドガンッッ!
あれは痛そうだわ
更に馬乗りになると、周囲に魔法障壁を展開して、口元に魔力が溢れ出す
……ィィィィイイイイイーーーッッ
まさか、アレをもう一度やる積もり?
私は、とっさにクレセントとサリーを抱え、師匠達の処まで飛び去った
ズドトオオオーーーーーーーーッッ!!
地面から天空へ向けて閃光が走る
え?
様子がおかしい!
立ち上る閃光が収まると、首から上が無くなったセレロンが倒れる
「!!」
すぐさまセレロンの元へ飛び、抱き抱える
セレロンは少しづつ頭が再現されつつあった
良かった
ドラゴンの不死身は伊達じゃ無かった
ムクリと、魔王が立ち上がる
駆け付けて来たクレセントにセレロンを託すと、魔王と対峙する
笑っていやがる!
瞬間、魔王の姿がブレて、糞勇者インテの姿に代わる
「やあ、子猫ちゃん、元気そうだね!」
インテの顔面に、思い切り右ストレートをブチかます!パアンッッ!
勢い良く、インテの頭が弾け飛んだが、直ぐに復元された
「痛いじゃ、無いか?子猫ちゃん!」
「次にそう呼んだら、殺ス!!」
「出来もしない事は、口にしない方が良いよぉ?こね……」
ドカッ!バキバキバキバキバキバキバキバキ!!
最後まで喋らせずに、ラッシュをかけた
弱い癖に、邪魔するんじゃ無いわよ!?
インテは魔剣そのものだ
魔力だけで無く、物質として存在する
魔剣を持つ者に憑依して、姿を代えて暗躍出来る厄介なヤツだ
再生する度に頭を潰し続けたけど、良い加減飽きてきた
「ゆ・う・しゃあああぁぁぁーーーーーーっ!」
突然、ラファ姉の叫び声が響くと、ガブリエラとウリエラを振り払って飛び込んできた
現役聖女だった時に、愛用していたハルバードをインテ目掛けて振り下ろす
ドカカッ!
「ラファ姉?下がって!」
「うるさいっ!」
駄目だ、止めても聞かない
その隙にインテが距離をとった
「アハハハッ!どうして死人が居るのかなぁ?」
嘲笑い、挑発してくる
「貴様を殺ス!!殺してやる!」
ラファ姉は力任せにハルバードを振り回すが、インテの動きに付いていけない
「ハハハハハハハア!ラファエラァ、君を殺し、お腹から胎児を抉り出した時の顔は覚えてるよぉ?あの、驚きと絶望に打ちひしがれた表情はサイコーだったよ!」
「喋るな!」私がインテに先回りして頭を両断するが、すぐさま復元する
そこへラファ姉が入って来る
「お前だけは許さない!私の大切なモノを返せ!私達の幸せを返せえ!」
ラファ姉の攻撃は大振りな分、当たらなければ隙が多い
ザクッ
インテの魔剣がラファ姉の心臓を貫く
「!!」
すぐさまインテを蹴り飛ばして、ラファ姉を庇い、治癒の聖魔法を発動する
「ぐうっ、……や、辞めて」
「ミカエラ!ラファエラはアンデッドだから、聖魔法は効かないどころか、下手すると消滅するわ!」
師匠、そういう大事な事は、先に言って欲しいわね?
「くははは、聖女の君を誑かして、まんまと引退させたアイデアが、こんなに上手くいくとは思わなかった!」
「だ・ま・れえええーーーー!!」
ラファ姉は怒りに任せて突撃するが、全てインテに躱されている
アンデッドだから心臓も動いていないのか、出血もあまり無い
「君の初めてを戴いた時の顔も、忘れられないよぉ?何度も身体を重ねた夜も、愛を語らい合った時も、全てはこの為さぁ!ざまあ無いね?ラファエラァ?アヒャヒャヒャヒャ!」
ラファ姉の頭を飛び越えて、インテの首根っこを掴まえると、勢いそのままラファ姉から遠ざける
「それ以上喋るな」
「あれ、怒っちゃった?子猫ちゃん?」
インテの頭頂部から股下に向けて、卍丸の抜き手で貫く
身体の中心部を貫かれると、一時的に動きが止まるのは、魔剣の弱点のひとつだ
とすれば、そこに何かしら理由が有る筈
手を抜きながら魔剣の魔力を探ると、複雑に絡み合った魔力の繊維の中に「核」の様な感触があるのに気付いた
すかさずソレを掴むと、インテの身体から引き剥がす
ムリムリムリ……
「ギャアアアアアーーッ!」
煩いな
構わず無理矢理引き剥がす
ブチブチブチィーー
引き出したソレを握り潰そうとするけど、意外と硬くて無理だわ
分断されたまま硬直してたインテが、ギョロリと私を睨んだ
「気持ち悪い」
パンッッ!
頭を叩き飛ばす
どうしよう、コレ……?
放っておいたら、多分また復活するわよね
魔力の流れと構成が、何となく理解出来る気がするのは、卍丸とミカと一体化してるお陰かしら?
「ミカエラ!考えるな!」
師匠の叫びに我に帰る
目の前のインテの姿がブレると、魔王が現れた
ヤベッ!
魔王は魔剣の「核」を奪おうと手を伸ばすが、そうはさせない
魔王に押し倒されながら、私は魔剣の「核」を飲み込んだ「ごくん!」のど越しサイアク
「あ、馬鹿者!?」
師匠が慌ててるけど、もう遅い
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