第53話 光の中へ



 ラファ姉は糞勇者と一緒に消えてしまった


 私が殺した


 大好きだったラファ姉を、私が殺した……


 キッ!と魔王を睨み付ける


 聖剣鎧装が解けて、さっきみたいな無敵モードじゃ無くなったけど、殺る気だけは全く衰えていないわ


 あれ?

 そう言えば、ミカとの憑依合体は解けてないわね?どうしてなんだろう??

 (居心地が良過ぎて、離れられませ~ん♡)

 ああんっ♡、あーーーっっ!

 駄目、喋らないで!

 頭が真っ白になるから!

 さっき迄のシリアスな感じが、台無しだわ


 んんっん、仕切り直して


 さあっ、魔王っ!イクわよ!


 魔王は笑ってる

『クックックッ……』


 な、何よ?失礼ねっ?余裕ブッこいてんじゃ無いわよ!


 魔王目掛けて突進する!

 光の刃を逆袈裟に振り抜くけど、躱された


 聖剣鎧装してる時よりも、私のスピードが落ちてる


 ザカッッ!


 魔王の鋭い爪が、私の左肩を抉るけど、徐々に回復する

 おそらく、ミカと合体してるお陰で、回復力が底上げされているんだわ

 傷は治るけど、痛みは有る

 痛いという記憶は、気持ちを怯ませるから気を付けないとね


 魔王は明らかに卍丸の光の刃を警戒してるわね


 目の前で、魔剣の核を吸収して見せたから当然だろうけど、もしかしたら、今の卍丸なら倒せるかもしれない


 互いに少し距離をとって隙を伺う


 そうだ、聖剣鎧装で圧倒して、隙を狙って光の刃で攻撃すれば良いんじゃね?

 私ってばあったま良い~♪

 (そういうところですよ?)

 あっ、うんんんっ!ーーーーっっ、んう!

 ちょっと、止めて、ミカ?

 思わず腰が抜けちゃったじゃない

 ドカッ!

 へたり込んでいたら、魔王に蹴り飛ばされてしまった

 

 数十メートル離れた瓦礫の山に突っ込んで止まると、魔王は凝縮した魔力をビームの様に放ってきた

 ズドン!スパッ!

 咄嗟に光の刃で切り捨てる

 あれ?

 魔力のビームを吸収しちゃった


 凄ぇな卍丸!

 魔力を斬ると吸収出来るんだ?

 

「斬れない物は無いわ」ラファ姉の言葉に嘘は無かった!

 

 無敵じゃん卍丸!

 掌の中の卍丸がドヤ顔してる様な気がするわ


 魔王がちょっと呆れ顔してるのが笑えるわ


『ナンだ、ソレは?』


 げっっ、魔王が喋った!?

 そりゃ、堕天使だかなんだか知らないけど、人の形してるんだから当然か


「答える義理が見当たらないわね」


『……貴様はナンだ?』


「私は聖女ミカエラ!お前を滅する者よ!」


『ククッ、笑わせる』


「卍丸!」

 私は一瞬で聖剣鎧装すると、魔王へと肉薄する


 ドドドドカカカカッッ!!


 私のスピードに付いて来れない魔王をタコ殴りにするけど、濃厚な魔力でコーティングされた肉体にダメージが通らない


 魔王の攻撃も、今の私には効かないけど、そもそも当たらない

 全て避ける事が出来た


 決め手に欠けるわね

 やっぱり、光の刃でないと駄目か


 死角に回り込んだ瞬間、聖剣鎧装を解き光の刃を発生させる

 貰った!!

 光の刃を魔王の後頭部へ突き立てようとした

 その瞬間

 魔王の抜き手が私の腹を貫いていた


「!!!!」


『誰が誰を殺すって?』


 魔王が嘲笑いながら、手を抜きつつ私の脊髄を砕き、内臓を引き摺り出す

 ズルズルゾゾゾゾーー

「くあぁ……」

 熱い!気持ち悪い!やられた!油断した?

 ブチブチブチッ!

「ああああーーーーーーっっ!!」


「「ミカエラ!?」」


 駄目だ

 脊髄を折られ、内臓を抜き取られたせいか、立っていられない


 堪らず、その場に崩れ落ちてしまった


 (ミカエラ様!?)


 んっ、

 ミカがすぐさま回復させようと、してくれるけど、ごっそり持っていかれた内臓と脊髄神経の再生に時間がかかってる


 魔王が動けない私の髪を掴み、持ち上げると、顔面に何度も蹴りを入れてきた

 バキバキバキバキバキバキ!ドキャッ!

 最後は蹴り飛ばされる

 下半身が千切れて、少し離れた所に落ちた


 まだ回復が間に合わない

 力が入らず、起き上がる事すら出来ない


 顔面もグシャグシャに潰れてて、目が開かない


「お姉様!!」


 ウリエラの悲鳴が聞こえる

 畜生、失敗した


 私の負けなのか?

 卍丸の力を過信した?

 己の力に慢心したの?

 ここで死ぬの?

 ラファ姉の仇も討てず?

 駄目だ

 駄目だ

 駄目だ


 魔王が魔力を凝縮して、私に止めを刺そうとしていた


 クソッ死んでたまるか!


「卍丸……」


 あまりの激痛に、意識が飛びそうになりながらも、聖剣鎧装を試みる

 上半身と下半身が千切れてるけど、もしかしたら、卍丸の力で再生出来るかもしれない


 その時、目の前にウリエラの守護天使ウリエルが現れた

「……え?なに?」

 ウリエルが癒しと安息と治療の効果をもたらす歌を奏でる

 ウリエラが聖魔法を展開してくれているのだ


 ウリエラの治療の奇跡のお陰か、卍丸の聖剣鎧装の効果か分からないけど、奇跡は起きた

 私は再びくっついた下半身の具合を確かめつつ、何とか立ち上がる


 そこへ、魔王が凝縮したエネルギー波を放ってくる

 ズドーーーン!!

 まともに喰らったけど、聖剣鎧装が間に合ったお陰で、全く効かない


「チッ!!」


 魔王が舌打ちした


「ふううぅーーーーっ」

 自分を落ち着かせる為に、一つ大きく息を吐く


 聖剣鎧装は無敵だけど、魔王に対して有効打が無い

 この状態で光の刃が使えない限り、魔王を倒すのは恐らく不可能だと思う


 魔王が殴る蹴ると、怒涛の肉弾戦を仕掛けて来たけど、全て回避してカウンターを、喰らわせる


 スピードとパワーは、こちらが上だけど、魔王は損傷しても即座に回復してしまう


「恐らく、魔王は聖都に収束されるエネルギーを、己のモノとして利用出来るのだろう」


 師匠が呟くのが聞こえた


 じゃ、何ですか?

 魔王のエネルギーは無限大って訳?


 ……勝てる訳無いじゃん!?

 どうすりゃ良いのよ?


 …………そうか


 魔王に出来るんなら、私にも出来るんじゃね?


「は?」


 師匠が固まった

 何か変な事言ったかしら?


 魔王と殴り合いをしながら、封印のエネルギーを探ってみる


 信仰心が集まり、集束されて封印する力へと変換する源は……あっ、もしかして、これかな?


 魔力の流れを手繰って行くと、多数の細い魔力の糸を、束の様に練り集める箇所に気付いた


 これもミカと憑依合体している、お陰かな?

 (えっへん!

 もっと褒めてくださって良いんですよ?)


 はあァん、だ、駄目だってばぁ♡


 思わず全身を貫く快感に腰が砕けてしまった

 魔王の右ストレートが顔面に入って、数十メートル飛ばされる

 更に馬乗りにマウントをとった魔王にタコ殴りにされる

 ドガカガガガガ!!


 「良い加減に、しやがれーーっ!」

 下から蹴り飛ばす

 

 周囲は、ガブリエル、ウリエルのお陰で聖気に満ちて居る筈なのに、魔王の周辺だけが異常に暗い


「すうーーっ、ふんっ!」


 深呼吸して落ち着く


 距離をとった魔王が、再び魔力を練る


 と、いきなり師匠達の方へエネルギー波を撃ち出した

 ドムッ!

 慌てて追いかける


 師匠にガブルン、ウリエラ、サリーの魔力障壁と、ガブリエル、ウリエルの魔法結界のお陰で、直前で何とか持ちこたえているけど、エネルギー波が消滅せずに障壁を突き破ろうと粘っている


 飛び込みながら、エネルギー波を蹴り飛ばすと、立て続けに魔力攻撃を受けた


 聖剣鎧装の今の私には、全く効果は無いけど、魔王は魔力攻撃しながら、少しずつ近寄って来る


 師匠達を守りながら戦うのは不利だわね


 仕方ない

 私も魔王の方へ近付こう


 でも、どうしよう?

 魔王を倒す有効手段を思い付かない


 今出来る事は、封印に集まるエネルギーを、私も取り込む事

 これは、多分既に出来ている

 魔王のエネルギー源を私が横取り出来れば、弱体化を狙えるかもしれない

 でも、やり過ぎると、封印が解けてしまうから、加減しないとね


 取り敢えず、魔王をここから引き離そう


 目と鼻の先まで近寄ったところで、パンチを繰り出して来た魔王の腕を掴むと、思い切り振り回す

 勢いをつけたまま、遠くへ放り投げてやると、すぐに追いかける


 五キロ位飛ばしたけど、魔王は空中で止まった


 そりゃ、背中に翼が有るから、飛べるわよね

 私もミカと合体してるから、翼で飛ぶ事が出来るし

 翼と言うより、魔力で翔んでる感じだけど


 魔王が力任せに肉弾戦を挑んでくる


 全て捌きながら、たまに撃ち出す魔力攻撃を弾いて防ぎながら、考える


 ……魔王って、堕天使なのよね?

 女神様に反逆して、闇に堕ちた元天使


 天使……


 ミカと同じ天使


 本来は、魔力だけの存在だけど、ラファ姉の赤ちゃんを呪胎の媒体として実体化している


 つまりは、今の私と同じ……?


 バコッ!


 考え事してたら、一発喰らったわ

 ムカついたから、思い切り殴り返す

 バキッ!ズドン!

 魔王が地面に落ちる


 光の刃は、確かに魔王を滅する事が出来るかもしれないけど、正直、聖剣鎧装じゃないと、太刀打ちできそうも無い

 完全に手詰まりだわ


 でも、多分やり様はある


 さっきから、封印に集まるエネルギーを探っていて、魔王の魔力とも繋がっている実感がある


 魔王の魂の存在を感じている

 とても暗く、寂しく、深い哀しみと絶望に満ちて、激しい怒りと復讐への渇望に支配されていた


 女神様だけで無く、生きとし生けるもの、世界その物をも怨み、消滅させたいと強い決意を感じる


 ドキューーーーーーン!!


 魔王が暗黒のブレスを放つが、片手で弾き飛ばす

 激しい憎しみの眼が私を睨み付けていた


 ……

 ……やってみよう


 上手く行くかどうかは、全く分からないけど、決断は早かった

 (ちょっ、ちょっとミカエラ様!?何を……)

 んんっん、ミカはお願いだから少し黙ってて?


 私は魔王の目の前に降り立つと、魔王に語り掛ける

「辛いでしょう?貴女を解放してあげるわ」

「……!?」

 一瞬、魔王は何を言われたのか理解出来なかった様だ、攻撃の手が止まった


「ミカエラ!?何を?」


 師匠が叫んでるけど、私は私に出来る事をするだけ

 魔王の両手を掴むと、慌てて引き剥がそうと暴れる魔王を引き寄せる


「一つになろう?」


 そう言うと、私は魔王に口付けをした


「「「えぇーーーーー!!」」」

「何と!?」「あらあら、まあまあ」


 外野から叫び声が聞こえるけど、無視


 魔王は眼を見開き驚いていたけど、私が舌を入れたのを噛み切ろうとしてきた

 けど残念

 貴女の攻撃は私には通じない


 更に舌を絡めながら互いの魔力を交換してると、段々魔王の力が抜けて行った

 魔力としての存在と言う意味なら、魔王より今の私の方が遥かに格上だ

 私の中のミカが、イライラしてるのが伝わってくるけど、我慢してね?


 やがて魔王の眼がトロンとする


 堕ちたな

 いや、最初から堕天してるけど


 しきりに私を叩いていた魔王の手が、私の背に回されてハグされる


「ちょっとお!何してんのよ糞魔王!?」

 クレセント、うるさい

「あ~ん、お姉様ぁ?」

 ごめんねウリエラ

「ふっ、不潔です!」

 サリー、余計なお世話よ


 暫く、口付けしながら互いの魔力を交換していたけど、魔王の力が完全に抜けてから口を離す


 汗ばんで、眼をトロンとさせた色黒美女

 ヤバいわね

 必要だからしてるんだけど、何だかこっちまで変な気持ちに成りそうだわ


 耳元で優しく囁く

「今から、私が貴女の中に入るからね?

 受け入れてくれる?」

 コクン、とすっかり従順になった魔王が頷く


 何だこの可愛いの!

 使命を忘れかけるわ!?

 ダメダメダメダメ、集中しなきゃ!


 魔王はラファ姉の仇だけれど、本当の仇は魔剣に魂を乗っ取られた糞勇者だった


 魔剣で勇者を操り、魔王を復活させようとしたのは、秩序の月の精霊龍ハモニアル


 言ってみれば魔王もある意味、巻き込まれた被害者だわ


 私はゆっくりと、魔王の魂と一つになるイメージを卍丸に流す

 すると、少しづつ魔王の魂と私の魂が重なり合う感じがする

 ミカは、諦めたのか、飽くまで私の味方なのか、魔王の魂を優しく包んで行くのを手伝ってくれていた


 それにしても、こうして魂が重なり合うのって、どうしてこんなに気持ち良いんだろう

 魔王と私は、全身を駆け巡る快感に包まれながら、一つに溶け合って行く


 めくるめく快感と、絶え間ない絶頂と幸福感の中で、気持ちが一つになって行くのが分かる


 永遠に続く時間だったのか、それとも一瞬の出来事だったのか分からない


 白く輝く聖なる光の渦と、暗く渦巻く闇が私と魔王を取り囲む様に拡がり、強烈な渦巻きを成す


「ミカエラッ?」


 師匠が叫ぶけど、今の私には届かない


 私の意識は魔王と一つになり、果てしない多幸感と、恍惚に包まれていた

 それと同時に、私の中に仄暗い感情と寂しさと絶望が入って来ていた


 相反する感情だけど、全てが、押し寄せる快感の前にはどうでも良かった


 結果が上手く行くのかどうかさえ、今の私には考える事すら出来ない


 やがて、激しい旋風が収まると、静かに佇む存在が居た


 魔王も聖女ミカエラも、そこには居なかった


 背中に十二対の淡く輝く翼を持ったソレは、両腕の中に赤子を抱いていた


 ミカエラでは無かった

 魔王でも無い


 明るい筈の空は一転、夜闇に覆われ、満天の星空が拡がっていた


「何だ……アレは?」

 流石のペンティアムさえ、狼狽える


 静かに佇むだけに見えるその存在は、かつてペンティアムが召還した大天使と類似していたが、迸る魔力量は桁違いだった



 ……私は静かに祈った

 女神様、どうかこの子の魂を導いてあげて下さい……ラファエラ母様の元へと


 祈りが通じたのか、赤子は光の粒子となって立ち昇り、星空へと消えて行く


 良かった……

 ラファ姉、赤ちゃんは取り戻せたよ


 星空を見上げながら、大粒の涙が頬を伝う


 寂しい、哀しくて堪らない


 虚ろな心が満たされる事の無い絶望に負けそうになる


 全てが憎くて堪らない

 全てを壊してしまいたくなる衝動を、抑えるのはミカエラの意志なのかは分からなかった


 卍丸……


 掌の中に光の刃が現れる


 ペンティアム達は、ただ見ているしか無かった


 私は、光の刃を逆手に持つと、迷うこと無く自らの魔力の核を、魂を刺し貫く


「何を!!」


 ペンティアムが慌てている


「お姉様!!」


 ウリエラが泣いている


 意識は、そこで途絶えた


 


 


 


 


 


 

 


 

 

 

 


 

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