第54話 明けの明星
気が付くと、花園に居た
空は高く晴れ渡り、小鳥の囀ずりが聞こえる
色とりどりの花々に囲まれ、良い香りがする
……ここは?
私は魔王と一つになり、自らの魂を光の刃で突き刺して……死んだ?
ふと、横を見ると魔王が寝ていた
何だか安らかな寝顔で、ホッとする
あの時、互いの魂を重ね合わせる事で、彼女の業が少しでも救われたなら、嬉しかった
根拠は無いけど、何故かもう対立しないのではないか?とさえ思えた
「あら、気が付いた?」
不意に明るい声が聞こえた
鮮やかな花園の向こうから、少し露出過多な女性が姿を現す
ここが天国だとしたら、女神様だろうか?
でも、伝え聞く女神様のイメージとは、かなり違う気がするわ
「言っておくけど、ここは天国じゃ無いわよ?
それに、貴女もこの子も死んだ訳じゃ無いわ」
良く分からない……
「まっ、難しい話しはナシナシ、一緒にお茶でもどう?いらっしゃい」
随分とノリの軽い謎の女性に着いて行くと、花園の中にテーブルと椅子が有り、ティーセットと茶菓子が並んでいた
テーブルの傍らには、頭から角が生えたメイドさんが控えて居る
角……魔族だろうか?
改めて自分の姿を確認すると、聖剣鎧装は解けているし、ミカの気配すら無い
当然、背中の天使の翼も消えていた
服だけは、何時もの聖女の装束だ
「警戒しなくても、アガリアは大人しい良い子よ?私の言い付けには良く従うわ」
それはつまり、貴女次第と言うよね
「あら、信用されて無いわね、お姉さん悲しいわ」
と言われても、私、貴女の事知らないし
アガリアと呼ばれた魔族のメイドさんが、良い香りのお茶を煎れてくれた
「遠慮は要らないわよ?どうぞ」
と、お茶と茶菓子を薦めてくる
「心配しなくても、毒なんて入れて無いわよ?」
笑いながら、自らティーカップに口を付けて見せる
良く考えれば、もしここが死後の世界なら、今さら毒の心配なんて意味が無いわね
女は度胸、一口飲んでみると実に美味しい
華やかさの中に深みのある不思議な香りのするお茶だ……あ、少しだけブランデーの香りもする
「ああ!貴女、イケる口だったわね?
こっちの方が良かった?」
パチン!と変な女が指を鳴らすと、ティーセットがワインに変わる
私の手の中の紅茶も、ワイングラスに変わっている
「ふふっ、このワインはね、私の自慢なの
この花園で採れた葡萄を使ってるから、神気に満ちてるわよ?」
やっぱりそうだわ
さっきのお茶の不思議な味わいも、神気だったのか
「そろそろ種明かしを、して欲しいんだけど?」
私が問うと
「私はルシフェラ、またの名をサテナ
貴女達が「明けの明星」と呼ぶ者よ」
「!?」
「明けの明星」聖職者ならずとも、知らない者は居ない伝説の悪魔で有り、煉獄の支配者
「アハハハハッ、そう構えなくても良いわよ?
私は貴女方が考えてる程、地上世界に興味なんて無いもの?」
と、言われても
とてもじゃ無いけど、私ごときが、どうこう出来る相手とは思えない
それこそ、指先ひとつで消し飛ばされても不思議じゃ無い
「んふふ、素直な感性ね、飽くまで自分に正直だわ」
ルシフェラは、何がおかしいのか、楽しそうに笑う
「ミカエラ、貴女が自分の命すら鑑みずに、アシュタローテの魂を救ってくれた事に、とっても感謝してるのよ?明けの明星として、あの娘を救ってあげる事が叶わなかったのに、代わってくれた貴女に謝罪するわ」
魂を救った?
確かに、滅したくとも、どうしようも無い手詰まりの中で、咄嗟に魔王と一つに成ったけど、アレは成り行きと言うか勢いと言うか……
そうよ!悪魔の王に感謝されるって、どんな状況なの!?
「あの娘が、調和の月の精霊龍ハモニアルに誑かされて、心を闇に支配されてしまって居たのを救ってくれたのは、紛れもない事実よ?
ミカエラ、貴女があの娘を救ったの」
えーーーーと、そう、なの?
「そうよ?
あのままでは、あの娘の魂は暴走して、地上を破壊すると共に、自らも破滅していたわ
そして、私達には決して出来ない方法で、あの娘を救ってくれた
まさか、呪胎して肉体を得たあの娘を、更に誑かす女誑しが居るとは驚いたわ」
お、女誑し?
誰が?え?私?嘘でしょ?失礼ね
「キャハハハハ!!自覚が無いのが笑えるわ!」
むう、何だか馬鹿にされてるみたいで、素直になれないわね
手にしたワインを一気に空にする
あ、あれ?
何だか目が回る?
満開の花園の中で、楽しそうに「またね」と微笑むルシフェラの笑顔を見ながら、私は意識を手放した
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