第32話 ファイト一発ドラゴンブレス


逆らっても無駄だと理解したのか、すっかり従順になったクレセントを椅子に座らせると


 「そんなに気に入ったなら、飲ませてあげても良いわよ?」


 私は備え付けの冷蔵庫から冷えたビールを取り出す


 この世界に「電気」は無いが、師匠は暗黒魔法を応用して、魔水晶に冷却効果を施した処、生鮮食品や飲み物を誰でも冷やせる様になった


 ウリエラが中央聖教会本部詰めと成った今では、ウリエラが定期的に聖都全体に祝福を送る事で、魔力を補充出来る様になってからは、爆発的に普及したのだ


 この画期的な発明品のお陰もあって、聖都へ移り住む人が増えたのも、聖教会の財政に大きく貢献しているので、大司教の権限は絶大だ


 冷やしたグラスをふたつ取り出すと、良く冷えたビールを注ぐ


 黄金色の液体に細かな泡がモコモコと立つ様子を、眼をキラキラとさせて真剣に見つめる様は、子供らしくて可愛らしいわね


 クレセントにビールを渡し


「飲んでも良いけど、祝福はしない様にね?」


 まるで、産まれて初めての、オモチャを喜ぶ子供の様に、満面の笑みでグラスのビールを見つめている


 私は、グラスのビールを一気にあおる

「ぷはぁーーーっ、旨えっ!」


 それを見て、クレセントも真似して一気にビールを飲み干した


「ング、ング、ーーー!はぁ~!」


 良い飲みっぷりだ


「ヒック!?」


 ん?まさか……


「ちょっと、アンタまたビールに祝福したの?」


「え?してませんよ?ヒック!」


 顔が真っ赤だ

 どうやら、コップ一杯のビールで酔っ払ったらしい、マジか

 子供の身体だから、酔いも早いのかしら?


「はぁ~、やっぱり美味しいですね」


 目がトロンとしてる


「ゲエップ!」ボッ!


 え?今、ゲップしたら火を吐かなかった?


「あひゃひゃ、

 わらしは精霊龍様の使徒れすから、ブレスくらい吹けますよぉ~?」


 と、言ったと思えばスゥーーーと息を吸ってる

 ちょっと待て?ブレス?

 ブレスってえと、アレか?

 精霊龍の使徒だから、ドラゴンブレス?


 冗談じゃ無いわよ!


「行っきまあーーーーす!!」


 咄嗟に、クレセントの頭を掴むと、窓の方向を向けさせた


 ドッキュウゥーーーーーンッッ!!


 閃光と共に窓ごと壁が無くなった


 幸いと言うか、ブレスは壁を撃ち抜いて、そのまま夜空へ溶けて消えていった


 もし、これがラファ姉のお店だったら、大惨事である

 て言うか、コイツ私めがけて吹く気だったろ?


「はひゃひゃひゃひゃ!

 壁が無くなっちゃいましたぁ!」


「何事ですか!?ええーーーっ?」


 隣の部屋からデュオが飛び込んで来て、そのまま固まった


 気持ちは分かる


 て言うか、私この部屋で寝るの?

 勘弁してよ?


「はにゃぁ~」


 元凶は魔力切れを起こして、目を回してしまっている

 パワーコントロール下手くそか?

 えらいモン拾っちゃったわね


「ご、ご無事ですか、ミカエラ様?」


「あー、何度も起こしちゃってゴメンね」


 片付けと掃除を始めるデュオ

 本当に良い子だなぁ


「酔っ払ってますね……

 子供にお酒飲ませたんですか?」


 まあ、私にも責任の一端は有るかもしれない


「今夜の事は、大司教様にもご報告させて頂きますからね!」


 あージト目で怒ってるわ

 けど、モーマンタイ!

 今回は師匠の言い付けを守った結果だから!


「そう言うところですよ!」



 


 




 

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