第33話 天使の欠片を拾うもの
自分が何かすら分からなかった
どれくらいの時間、そうしているかも
何故、ここにこうしているのかも
何も分からず、いつかやがて
誰にも知られる事すら無く
ただ、消え去る時を待つだけの
そんな存在の筈だった
「見ーつけた♪」
若い女の声が聞こえる
その少女は明るい金色の髪を、わざわざ黒い布切れで覆い隠していた
頭部だけでは無い
身体全体を、黒い布の服で覆い、肩掛けのみが白い布地だった
「一人きりにされて寂しかったでしょう?」
寂しい?
「置いてきぼりにされて悲しかったね」
悲しい?誰が?
「忘れるなんて酷いよね」
酷いのは誰……?
「もう、大丈夫よ」
何を喋っているの?
誰に語っているの?
聞いているのは誰?
聞いているのはわたし?
わたしは誰?
わたしは何?
わたしはわたしは?
あなたは何処を向いているの?
そこにわたしは居るの?
見えない
分からない
声を聞かせて
もっと
近くに感じさせて
「あなたを棄てた者達に感謝を」
誰?
「あなたを棄てた者達に報いを」
わたしは?
「あなたに会えた事に喜びを」
嬉しいの?
貴女が嬉しいなら、わたしも嬉しい?
「共に在らんと願う我が声に応えよ」
燭台に灯りが点され、ぼんやりと少女の顔が照らされる
青い綺麗な瞳が、此方を見つめている
ああ、この少女にはわたしが見えているのだ
この少女はわたしが何なのか分かるのだ
わたしは……
「我が前に姿を成せ、そなたの名は……」
次の言葉が響いた時、わたしは自分が何か分かるのだろうか?
「神に棄てられし者、アシュタローテ」
嗚呼!
嗚呼!嗚呼!嗚呼!嗚呼!
…………
『呼んだな、私の名を』
魔力の奔流が渦を成し、室内を魔力の暴風となって荒れ狂う
床に刻まれた魔方陣が、激しく煌きながら逆流し、形を変える
黒い瘴気が何も無い空間から生まれ、うねり、やがて十二対の翼を持つ天使の姿を形造る
その姿は、神々しく、禍々しくも在り、尚且つ視る者に深い絶望と後悔をもたらした
背中に生えた翼は漆黒に染まり、長く伸ばされた髪もまた、光を吸収するかの様な黒であった
その眼もまた、暗黒を現し
静かに、正面に跪く少女を捉える
「呼び掛けに応じて頂き、感謝致します
アシュタローテ様……」
『私を呼んでくれたのは、貴女?』
「はい」
『名は?』
「セラフィエラと申します」
『セラフィエラ
呼んでくれた恩に報いる為、
私は貴女の剣と成ろう、
貴女の盾と成ろう、
貴女が望む限り、貴女と共に在ろう』
「討つべき仇の名はペンティアム
貴方様を棄てた愚者の名で御座います」
やがて燭台の灯りが消えると、大聖堂の地下深く、誰も知らない、誰も出入り出来ない筈の秘密の部屋は、暗闇と静寂を取り戻すのだった
そこに残留していた、使い潰された哀れな天使の残滓が消え去るのと共に
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