第39話 魔剣の鼓動


ペンティアム師匠が、ミレニアム教皇に願い出たのは、王城に拘束された元聖騎士団副長、ヴィー・ドス侯爵令嬢への尋問許可と、ミンチ状態のパワーマック伯爵の遺体回収だった


 そう言えば、あの年増美人は糞勇者のインテと「ねんごろ」な関係だったみたいだしな


 そんな訳で、師匠と共に王城入り口まで転移して来たのだが、何故かクレセントも一緒だ


「サリエラと二人きりにしたら、誰にも止められんから、連れて行ってくれないか?」


 と、教皇聖下にお願いされてしまった

 確かに、この爆弾娘と戦乙女を東方支部教会に置き去りにしたら、日が暮れるまでには聖都が灰に成りかねない


 ヴィーは聖下の幼馴染みで、聖王陛下の姪にあたる「やんごとなき」お方だから、地下牢では無くて「特別室」に軟禁されているらしい


 どうせ「クロ」だったら首を跳ねるのだから、特別扱いする意味が分からないわ

 貴族って面倒臭いわね


 王城内部に、直接転移しないのは、師匠なりに王家に対して敬意を現す必要が有るからだそうだけど、私には難しい政治の話はサッパリ分からないから、師匠の説明は右から左に素通りしてる


「説明されても理解出来ないなんて、ホントに脳ミソまで筋肉で出来てるのね?」

「あぁっ!?もういっぺん言ってみろ!」

「止めなさい、鬱陶しい」


 クレセントの煽りにキレかけた私を、師匠が窘める


「ミカエラも、もう少し年長者として落ち着きを見せて欲しいわね、相手はまだ子供じゃない」


「やっぱり大司教は良いこと言うわね、

 そうよ、子供相手にムキになって恥ずかしく無いの?この脳筋ゴリラ!」


 ブッチーーーン!


 いやいや、怒っちゃ駄目

 我慢ガマン……今、師匠に言われたばかりよね

 

 心の中で血涙を流しながら、何とか我慢する


「脳筋ゴリラは悪口だから、怒っても仕方無いと思うけどね、だけど後にして」


 大きな扉を幾つか潜り、侯爵令嬢が拘束されて居る部屋に着く


 クレセントは眼にする物全てが珍しいのか、とにかく落ちつきが無い


 部屋の前に居た近衛兵に、取り次ぎを言い付けると、扉を開けてくれた


「……む?」


 室内へ入りかけた師匠が、入り口の手前で立ち止まる


「どうかしましたか?」


「誰も入るな」


 師匠はそう言うと、眼帯を外し、室内に向けて魔力を練り始める


 虹色の魔眼が室内の一点を見据え、そこへ魔方陣を展開させた


 居る筈の部屋の主は見えない

 ただ、豪華な家具と調度品が在るだけだ

 (おかしい……ヴィーは何処に?

 それに、師匠は一体何を?……ん?あれ?)


「師匠、これってもしかして……」


「気付いたか」


 魔王の封印として機能する様に造られた聖都

 その中心となる大聖堂に連なる王城は、常に邪気を祓い、聖なる神気で満たされている


 だが、この部屋は……


「何だかヤな感じ~」


 クレセントも気付いた様だ


 部屋の端に置かれたベッドの周りが、仄暗い瘴気に覆われている


 それだけでは無い、ベッド下の影や、部屋のあちらこちらから、何かが見ている気配がする


「ミカ」

「はい、ミカエラ様」


 私の呼び掛けに瞬時に守護天使のミカが顕現すると、静かに歌い出した

 その厳かな歌声に浄化の聖魔法を乗せると、歪な雰囲気だった室内の様子が一変する


 美しい調度品で飾られた筈の室内は、荒らされ、壁や閉じられたカーテンは血にまみれていた


 床に敷き詰められた分厚い絨毯も、血を吸ってドス黒く汚れている


 部屋中から此方を見ていた気配は消えたが、代わりに何者かがベッドに横たわって居る


「……やられたな」


 それはミイラの様に干からびた、王弟エムエス・ドス侯爵の変わり果てた姿だった


 


 

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