第38話 デュアルコアの秘めたる想い


聖都の大通りを、見習いシスターがひとりで歩いていても、全く不自然では無いし、寧ろ道行く人々と、親しげに挨拶を交わす姿は平和な日常を表しているとも言える


 日本で言えば、小学生高学年程度の少女は、白い貫頭衣の上に見習いを示す赤いローブを羽織り、フードを被っている

 フードから覗く、短く調えられた金色の髪と、青い瞳は、彼女が聖王国出身者だと分かる


 人類の救世主、大司教ペンティアムが作り上げた聖王国に於いては、教会に務める聖職者は憧れの存在であり、庶民にとっては、何の為に存在するのか分からない貴族よりも、余程大切で身近な存在だ


 だが、ミカエラの部屋の壁の修理を職人に依頼した帰り道、同じくシスター見習いのデュアルコアは、遠目に見掛けたその少女に小さな違和感を感じた


 (何だろう……何か変?)


 明確に何が違うとは言えないのだが、普段日常で接しているシスター達とは、何かが違うような気がした


 一瞬、後を着けようかとも思ったが、帰って来るか来ないかも分からない主人の為に、しなければならない仕事が、山ほど有るのを思い出して、諦めた


 (まさか、ドラゴンに乗って空を翔ぶなんて……改めて、凄い人に支えてるんだなぁ)


 ミカエラと言う人物は、巡業聖女と言うだけでも、素晴らしい存在なのだが、信じられないくらい、奇想天外で常識外れな冒険と活躍ぶりだ


 大司教の伝説と共に、巡業聖女達の活躍も、吟遊詩人の唄や、劇の題材にされている


 流石に、女神に支える聖女が、毎夜のように浴びるほど酒を飲んで、酔っ払って暴れているとは誰も想うまいが、西部街区では、結構知らない人の方が少ないかもしれない


 そんな素行不良のアバズレ聖女でも、自分の事は常に気に掛け、優しく接してくれる


 いつも、恥ずかしくて言えないが、デュアルコアはミカエラの事が大好きだった

 

 照れ隠しで、変な対応ばかりしてしまうが、そんな自分を、叱る事もせず、何でも許してしまう包容力は、まさに女神様の化身ではないのかと感激してるのだ


 自らの命も顧みず、奴隷商会組織に殴り込み、自分を救ってくれた命の恩人に、どうやって恩返ししたら良いのか、いつも考えている


 あの夜、燃え盛る炎を背に、奴隷商人共の首を跳ね、返り血で血塗れになりながら悲しげな笑顔で私に手を差し伸べ、優しく抱き締めてくださったミカエラ様の勇姿は、一生忘れない


 結局、ひとりでは生きて行く事すら出来ない私は、与えて下さった恩情に感謝しつつ、早く一人前のシスターに成るしか無いのだが


 (ミカエラ様は、恋愛に縁遠いとお嘆きだけど、聖女なのですから仕方無いわよね!

 いざと、なったら、このデュオが一生、ミカエラ様のご面倒を見させて頂く覚悟ですから、ご安心下さい!)


 ミカエラの知らない所で、侍女が決意を新たにしている頃、セラフィエラは引退聖女、ラファエラの居酒屋前に到着していた


「さて、返して貰うとしようかしらね?」


 穏やかな聖都の昼下がり、セラフィエラの影が怪しく蠢くのを、誰も知らなかった


 


 


 

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