第40話 風雲卍丸
「こ、これは一体!?」
近衛兵士が驚愕の表情を浮かべ、室内の惨状を凝視する
「私達以外に、この部屋に立ち入った者は居ないか?」
「朝食を届けに、侍女が入りましたが、それ以外にはごさいません」
「すぐに聖王陛下の安否を確認させなさい、
それに、侯爵の私室もだ」
「はっ、直ちに!」
兵士は一礼すると駆け出した
(サリエラ、聞こえる?)
(ペンティアム様、何でございますか?)
(侯爵が殺害され、侯爵令嬢が行方不明だと、ミレニアム聖下にご報告なさい)
(私も、そちらへ?)
(貴女は、引き続きそこで怪我人の治療とと浄化に専念して頂戴)
(畏まりました)
「聖下に状況だけは伝えたわ、
私は室内を検分するから、ミカエラは聖王の安全確保をして頂戴」
念話でサリエラと連絡を取ると、師匠は部屋に入って行く
私はクレセントとミカを連れて、聖王を捜す事にした
「せいおう、って王様?」
「そうよ、この国で一番偉い人ね」
「王位移譲の正式な手続きはされてませんが、現在は教皇聖下が実質のNo.1ですよ」
「え?そうなの、ミカ?」
「はい、サリエラから聞きましたので間違いないかと」
やるわね、ミカ
「ところで、王様は何処に居るの?」
「そんなの、私が知る訳無いでしょ?」
「えー?知らないの?聖女の癖に、使えねー!」
「あぁ?殺すぞ、小娘!」
「ああーーっ、ミカエラ様?
ほら、あの人に聞いてみましょう、ちょっとすみませ~ん!」
ミカが、通りかかった使用人らしき人物に、聖王の執務室の場所を確認してくれた
聞いた通りの場所へやって来ると、先ほどの衛兵と、数名が部屋の前で騒いでいる
「聖王陛下は、ご無事か!?」
「聖女様!」
開けられた扉から室内を見ると、聖王ウルティマ・マトロックスの喉元に剣を突き付けるヴィーの姿があった
「何の真似?止めなさい!」
「一足遅かったな、野蛮人めが!」
ヴィーは薄ら笑いを浮かべると、躊躇う事無く聖王の首を斬り落とした
床に転がる聖王の首が、見る間に干からびて朽ちる
「貴様!?卍丸!!」
瞬間、掌中に聖剣が顕現し、私は室内へ殺到し、ヴィーへ斬りかかる
ギン!
鍔迫り合いとなった処で、年増美人の姿が糞勇者に変化して見えた
「相変わらず、可愛いねぇ子猫ちゃん?」
「テメーッ、インテ!?」
インテは私に蹴りを入れて距離を取ると、そのまま窓を破り外へ飛び出す
「逃がすか!ミカッ、ウリエラと師匠に連絡を!」
すかさず私も後を追う
インテは五階の窓から中庭へ飛び降りたにも関わらず、平気な顔して走り去って行く
身体強化した私も、この程度の高さはヘッチャラだ、着地と同時にインテを追って走り出す
「ねえ、アイツ誰?」
何故かクレセントが一緒に追いかけている
「悪党よ!」
「分かった!」
一言答えると、クレセントは走りながらスウーーーと息を吸い込んだ、まさか?
ドキュンッッ!
一筋の閃光が、先を走るインテの背中を直撃して、爆発した
が、バラバラに千切れかけたインテの肉体は、瞬時に元に戻り、再び逃げ出した
「何あれ?!気持ち悪い!」
非常識な回復力に、クレセントが驚いてる
私だって、役目じゃ無きゃあんな化け物相手にしたく無い
「あれが勇者の特殊能力よ!どうやって殺したら良いのよ、あんな奴?」
「勇者?……違うよ、アレ」
「え?」
「あれ、人間じゃ無いよ」
そりゃそうだろう、普通の人間は斬れば死ぬ
心臓を刺されても、身体がバラバラになっても死なないなんて、どんな化け物よ?
回復の際に足が止まったせいか、互いの距離が少し縮まった
大体、三十メートルくらいか
私は一度立ち止まり、卍丸に魔力を流して弓に形状変化させると、静かに構えた
奴の正体は「魔剣」だと師匠は言っていた
だから、聖剣の卍丸と鍔迫り合いも出来る
肉体を斬っても死なないが、魂はどうだろう
奴に、そんな上等な物が存在するかは分からないが、私は「魂」を打ち砕く力をイメージして、卍丸に魔力を流し続ける
互いの距離が六十メートル程に広がった
魂って、何処に有るんだろう?
疑問に思った瞬間、魔力の矢が自然と放たれる
ヒュッッ!
気配に振り返ったインテの眉間に、光の矢が深々と突き刺さる
そのまま奴は倒れて動かなくなった
「やった!」
クレセントがはしゃぐが、まだ分からない
近寄ってみると、そこに倒れて居たのは、眉間に孔を空けた年増美人のヴィーの姿だった
「くそっ!」
「逃げられたか……」
いつの間にか、師匠が隣に立っている
「師匠、聖王は?」
「ウリエラにも蘇生は出来なかった、恐らく魂を切り裂き、吸収したのだろう」
そんな事が出来るのか?
しかし、実際に奴はアップルとヴィーの肉体を利用して、逃げ続けている
「お姉様~!」
城の方向からウリエラが駆けて来る
あ、躓いて転んだ
立ち上がり、また走り寄って来た
「お姉様、ご無事ですか?」
走ったので、肩で息をしてる
「私は無事よ、それよりウリエラの方が泥だらけじゃない」
聖衣に着いた汚れを拭き取ってやると、恥ずかしそうに、はにかんで照れて赤くなってる
何?この可愛い生き物?天使かしら?
あ、聖女だったわね
「サリエラからの報告で、ミレニアム様がこちらへ向けて出立したそうだ、父親と友人の死を伝えねばならんな……」
こうなると、教皇聖下が近衛騎士団を引き連れて、王城の警備が手薄に成った所を襲ったのでは無いかとさえ思えてくる
「実際に、その通りなのかも知れん」
「魔薬汚染による聖都破壊と言い、王家の血筋を次々と屠った事と言い、全てが奴の計画通りだと?奴の狙いは一体何でしょうか?」
「先ず間違いなく、教皇聖下のお命を狙って来るわね、もう後が無いわよミカエラ」
魔王の封印に王家の血筋は直接の関係は無いが、聖王国の国民にとっては、王家が存在しなくなるのは大事件だ
信仰心も兎も角、王国の存在意義そのものが根底から覆る可能性すら有る
まともにやり合ったら、インテの力では私には太刀打ち出来ないから、逃げた
逃げたと言う事は、まだやる事が残っているのだろう
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