第41話 罪には罪の酬いを
聖王の葬儀とミレニアム聖下の戴冠式は、三ヶ月後に執り行われる運びとなった
未だ聖都の混乱が収束していないが為の、猶予期間とも言える
逆に言えば、何としてもそれまでに、糞勇者をブッ殺さなければならない
聖王国も、国王と宰相のふたりを同時に失い、ミレニアムひとりが、総ての重責を背負わなくてはならなくなってしまった
「聖下、約束致します、奴には必ず酬いを受けさせます」
「すまない、ペンティアム……
私が不甲斐ないばかりに、皆には迷惑をかけるな……」
「お気を確かに、此方にはミカエラとガブリエラふたりの巡業聖女とウリエラ、戦乙女のサリエラ、更には秩序の月の使途も居ります」
実際の話し、騎士団が千人居ようが、私達の方が遥かに戦力的に圧倒的なのは間違いない
しかし、インテは常に裏で謀略を巡らせ、此方が後手に回らされている始末だ
圧倒的に手数が足りない
とは言え、インテもパワーマック伯爵家、聖騎士団、ドス侯爵家と言う手駒を失った筈だから、ここから一気に挽回してやろうじゃない
「ミカエラ様!」
その時、教皇執務室の扉を乱暴に開き、飛び込んで来た人物が居た
走って駆け付けたのか、肩で息をするのは、私の侍女、見習いシスターのデュオだ
一介の見習いシスターごときが王城へ立ち入る事すら、憚られるのだが、何か緊急事態なのは間違い無い
「デュオ?どうしたの!」
デュオの顔色は真っ青だ、崩れるように倒れる彼女を支え、何が起きたのか問いただす
「ラファエラ様が……あぁ、赤ちゃんが!」
聞くや否や、デュオを師匠に押し付け部屋を飛び出し、ラファ姉のお店を目指して走り出す
残されたデュアルコアをペンティアムが精神操作で落ち着かせ、続きを促す
「ラファエラがどうしたと言うの?」
「お腹の赤ちゃんが消えました!それに、ご主人も居なくなったようで……」
「胎児が消えただと?」
「様子のおかしい見習いシスターが気になって、見に行ったら、ラファエラ様のお店が荒らされていて……奥でラファエラ様が倒れておいででした」
「ラファエラは生きているのか?」
「いいえ、いいえ!いいえ!もう……」
デュアルコアは両手で顔を覆い、激しく泣き始める
(ラファエラを殺しただけでなく、お腹の中の赤子だけを連れ去ったと言うのか……だが、何の為だ?)
「ラファエラって、この前ビールを飲ませてくれたお姉さんの事?」
「知っているの?クレセント」
「うん、あそこは変な気配が淀んでたから、気になって入ったんだけど」
「変な気配?魔力じゃ無くて?」
「そう言うのとは、少し違うかな」
「私も行ってみます、まだ間に合うかも知れません」
ウリエラがペンティアムに言う
「そうね、だけど、聖下を御一人にする訳にもいかん、ガブリエラを此方へ呼んだから、すこし待ちなさい」
ミカエラは全速力で大通りを疾走していた
ラファエラは巡業聖女の先輩として、何時もミカエラを優しく指導してくれた恩人だ
ペンティアムの元で、聖女見習いとして日々鍛錬に明け暮れていた自分を気遣い、毎日のようにお菓子を差し入れてくれた
殺伐とした仕事をこなしているにも関わらず、花の様な笑顔でコロコロと笑う姿が可愛かった
自分が晴れて聖女と成った時も、一番に抱き締めて喜んでくれた
本当の家族は顔すら知らないが、ミカエラにとってラファエラは、かけがえの無い姉の様な存在だった
「ラファ姉!!」
開け放たれた入り口から飛び込むと、奥の部屋にラファエラが横たわっていた
虚ろに開かれたままの両目からは涙が流れた跡が残り、口元から激しく吐血している
そして、衣服ごと内臓まで大きく切り裂かれた腹部は、居た筈の赤子が抉り取られ、床一面が血の海と化していた
声が出なかった
自分の目に映る現実が信じられなかった
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!)
「うわあああーーーーーーーっっ!!」
凄惨な殺害現場にミカエラの叫び声がとどろく
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