第42話 堕天使


ペンティアムは大聖堂地下深くの秘密の部屋に転移すると、違和感を感じた


 (何者か、ここへ入った?馬鹿な)


 しかし、床面に刻まれた魔方陣は、全く別物に変化している


 (……これは何だ?)


 眼帯を外し、虹色の魔眼で真理を見定める


 やがて、その正体と、ここで何が行われたのか理解する


「くそっ、やられた!」


 戦乙女のサリエラを創りあげる際に、ペンティアムは禁忌とも言える闇魔法や、物事の真理を司る暗黒魔法を用いて錬金術の秘法を行使したが、サリエラを創る為には、サリエル以外にも天使の核(魂)を必要としたのだった


 そして、核以外は霧散して文字通り此の世の理から外れて消滅してしまうのだが、残された魔方陣の正体は、その使い捨てられた天使の残滓を黄泉の狭間から呼び戻す術式であった


 世界中から信仰心をエネルギーとして収集出来るこの部屋で、まさかの魔王召還の儀式が行われて居たのである


「何もかもが、奴の策謀の内に踊らされていると言う訳か!ふざけるな!」


 こんな事が出来る存在にペンティアムは心当たりが有った


「魔王アシュタローテ!調和の月よ!首を洗って待っていろ?私と、私の聖女達が、必ず貴様を滅してくれる!」


 ペンティアムは室内に新たな魔方陣を展開すると、そこへ二つの遺体を並べた


 聖魔法の奥技、「死者蘇生」も叶わぬ程、損壊した遺体を蘇らせる禁呪、「反魂」を発動させる為に


 二日後、


 ペンティアムに呼び出されたミカエラは、目の前の現実が信じられずに居た


 確かに死んだ筈のラファエラが、聖女の姿で座って居る


 これは夢か?幻か?


「心配かけてご免なさいね?ミカエラ」


 ああ、ラファ姉だ!


 いつものラファ姉だ!


 きっとウリエラの蘇生魔法が、上手くいったのだ!女神様、ありがとうございます!


「残念だが、聖魔法での蘇生は不可能だった、現実を受け入れなさい」


 師匠は言うけど、そんな筈は無い

 目の前には、何時もと変わらないラファ姉が居るじゃない?ちょっと、顔色が悪いのは、蘇生間もなくて本調子じゃ無いからだわ、目付きが怖いのは、あんな事が有ったのだから当然よね?


「何度、説明させる積もりだ?

 ラファエラの遺体は、損壊が酷くて蘇生は不可能たったから、やむを得ず私が闇魔法で「反魂」させたのだ」


 へー凄ーい、流石、人外師匠

 何でも有りだわー(棒読み)


「だから、今のラファエラは人間では無い

 アンデッドだ」


 そんな筈は無い

 私達は女神様に使える、神の使途

 アンデッドは、滅すべき仇敵じゃない?


「ミカエラ?」


 ラファ姉が語りかけてくる


「心配してくれて、ありがとう、大好きよ?」


 良かった!

 やっぱりラファ姉はラファ姉だ!


「そうだ、例えアンデッドと成っても、ラファエラは自我を確保している限り、生前と変わらず活動可能だわ、但し、アンデッドだから、もう聖魔法は使えない」


 相変わらず、師匠は私が理解出来ない難しい話しを続けるのが好きだなあ


「代わりに、闇魔法の幾つか適正の有るモノが使える筈だ、身体強化、精神汚染、隠蔽、傀儡、召還等かな?」


 闇魔法とは、主に魔物や魔族が行使する邪法だが、何故か師匠は使えるらしい

 命は惜しいから、何故使えるのか、深くは聞かない

 まぁ、何千年も生きてれば、そんな事も出来るのだろう


「何か、とんでもなく失礼な事を考えて無い?」


 相変わらず察しの良い師匠だわ


「私は、例え忌むべき存在に堕ちても、許せない相手が居る限り、戦い、己の命運に抗うと決めたの」


「ラファ姉……」


 知らず、涙が頬を伝う


「一つ忠告しておくが、ラファエラは女神様の祝福を受けられない存在と化した、

 だから守護天使を召還すると、恐らくラファエルは堕天使として顕現する事になるだろう」


 ラファ姉の表情が曇る


「堕天したラファエルが、果たして人類に味方するのか、敵となるのかは未知数なのよ」


 堕天使


 封印された魔王は、女神様に弓引く堕天使の王、アシュタローテであると伝説は語る


 調和の月の精霊龍に唆されたアシュタローテは、女神様に歯向かい堕天し、魔王として人類の殲滅に乗り出した


 それを制したのが、糞勇者と人外師匠だ

 もっとも、糞勇者の方は聖剣の解放すら出来ずに、殆ど足手まといだったらしいけど


 だけど困ったな

 私達、聖女は守護天使の支えが有ってこそなのに、ラファエルが堕天してしまい、万が一にも魔王に与したらラファ姉はどうなってしまうのだろう?


「その時はその時よ、

 心配しないでミカエラ?私は私の敵を倒すのみだから……」


 


 


 


 

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