第43話 林檎の終焉


そして、私達の前にはもう一人(?)のアンデッドが居た

 クレセントのブレスで、完全にバラバラに破壊された筈のカンジトーク・パワーマック伯爵だ


 とは言え、ラファ姉の様に人の形では無くて、ミンチとスペアリブをゼリーで包んだ様なドロドロのスライムみたいな見た目だが間違いなく生きている

 あれ?

 アンデッドだから、生きてはいないのか


 まぁ、兎に角

 ドロドロウネウネと気持ち悪く蠢く肉の塊が居るのである


「ゾンビ状態にしても良かったのだけど、デブは嫌いなのでな」


 しれっと師匠が言うと


『デブとは何だ!失敬な!?』


 喋ったーーーーっ?

 口も無い癖に!

 脳ミソも麻婆豆腐みたいにグチャグチャなんですけどーー?


「民を奴隷としか思わず、搾取し続け私腹を肥やすから、その様に魂までデブに成るのよ

 言ってみれば、真正デブね!」


『貴様ーー!二度も言ったな?

 親父にも言われた事無いのに!?』


「だから甘ったれだと言うんだ!

 まったく、これだから貴族は好きになれん」


 黙って茶番を静観していたラファ姉が、何やら魔法を発動した


『ぐっ、ぐああぁーーー!?止めろ!』


 ミンチスライムが苦しがっているらしい、多分


「おい貴様……」

『貴様とは何だ?伯爵の私に向かって無礼であろう!』

 ドベチャッッ!!

 ラファ姉がモーニングスターでスライムを叩き潰した


『ギャアアアーーーッッ!痛い!痛い?』


 痛いんだ


「立場を弁えろブタ!」


「因みに、あなたの伯爵位は既に無効よ」


『なっ何だとーー?許されん!』


 許すも許さないも、もう死んでるし


 ラファ姉が冷たい眼でスライムに語りかける


「聞きたい事に素直に答えれば、すぐに楽にしてあげるわ」

 

 ラファ姉、怖い

 私には見せた事が無い表情で、ミンチの塊に尋問を始めた


「今から、貴様に傀儡の呪いをかける

 聞いた事に正直に答えないと、魂を削り落とすから覚悟しろ」

『ヒイイイィーーーーーーー』

 ドチャッッ!

『ギャアアアーーーッッ?』


「耳障りだ、ブタ、もう少し静かにしろ……」


『ヒッヒイイイィーーーーーーーッ!』

 ドチュ、グチャッ、ベチャッ!

『ギャアアアーーーッッ!や、止め……』


 ラファ姉がテーブルに会った瓶を取ると、中身をミンチにブッかける


 ジュワワアアァーー!


『ヒギャアア!』


 中身は聖水だったらしい、アンデッドのミンチの表面が焼け爛れて煙が立ち込める 

 

「面倒臭い、聖水風呂に沈めるか」

『やっ、止め止めろぉ』


「……勇者は何処だ?何を企んでいる?」

『しっ、知らん!本当に知らなギャアアアーーーッッ!!』


 死んでも尚、責任逃れをしてる

 魂まで腐りきってるわね


「アンデッドだからな、幾ら痛めつけても死ぬ心配は無いから、遠慮無くいけるわね」


 師匠が怖い事言いながら聖印をきると、浄化の聖魔法を発動させた


「細胞ひとつ残さず痛ぶってやるから、覚悟しなさい」


 逃げたくとも、身動きひとつ取る事も出来ない、元伯爵だった肉の塊は、浄化の魔力に触れた箇所から沸騰し、蒸発して消えてゆく


『ギャアアアーーーッッ痛い!痛い!痛い!

 止めろ?止めてくれ!

 奴だ!あの男を使って聖女を誑かして、引退させるように仕向けた!そうすれば、封印に穴が開くからと!

 産まれる赤子を依り代に魔王様を呪胎させる手筈だった!全て勇者が連れて来たあの男だ!』


 師匠とラファ姉の手が止まる


 では、ラファ姉の妊娠も結婚も、全てが嘘だと言う事なのか?

 ラファ姉がお腹に授かった命は、魔王の器に過ぎないと?


「卍丸……」


 思わす卍丸を呼び出し、スライムを両断すると、黒い瘴気の靄となり崩れて消えてゆく


「……ラファ姉、ご免なさい」

「…………」


 その場に崩れて泣き始めたラファ姉を抱きしめて、ずっと「ご免なさい」と繰り返した

 


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