第36話 ドラゴンライダー
ドラゴン
およそ人類には太刀打ち不可能な、神話級の伝説的存在である
事実、空に浮かぶ二つの月は、神と成った精霊龍だとされる神話が在り、それば真実だった
巡業聖女として、数多くの魔物を屠って来た私も、流石に本物のドラゴンに相対した経験は、無かった
『さ、遠慮は要らないわよ?』
目の前で、クレセントが全長二十メートル程のドラゴンに変化して見せた
大通りに居合わせた人々から、悲鳴と驚嘆の声があがる
そりゃ、そうよね
爽やかな朝の日常に、いきなりドラゴンが顕現したんだもの
皆、腰を抜かしてる
それにしても、いきなりだわね
何て言うか、こう、魔力が爆発したりとか、風が巻き起こったりとかするのかと思えば、ごく自然に、当たり前の様に姿が変わった感じだわ
クレセントの龍形態は、(ドラゴンとしては)小ぢんまりとした可愛い姿だ
全体が金色の鱗に被われ、翼も瞳も金色に輝いているので、其れなりに神々しい雰囲気ではある
ま、所詮私の敵では無いのだけどね
「そういう処ですよ?ミカエラ様」
呆気に取られてたデュオに突っ込まれた
「あー、うん
折角だから、乗せて貰おうかな?」
クレセントの背中によじ登り、デュオに声をかける
「このまま東方支部教会へ向かい、師匠に会いに行くから、デュオは戻って良いわよ?」
「頼まれても、一緒に行くのは、遠慮させて頂きます」
デュオは数歩下がって、恭しく頭を下げる
「無事のお帰りをお待ちしてます」
良い子ね、大好きよ
『じゃあ翔ぶから、しっかり掴まっててね』
そう言うと、クレセントは静かに宙に浮いた
別に、翼で羽ばたいたとかでは無く、どうやら魔力で浮遊した様だ
周りでは巨大な(人間の感覚では)ドラゴンが空に浮かんだので、大騒ぎとなっている
「行き先は分かる?」
『この前、騒ぎがあった方向でしょ?』
「向こうへ行けば、大きな教会が在るから直ぐ分かるわよ」
『任せて』
私を乗せた金色の龍は、音も立てずに聖都の空を東へと向け飛び出した
魔力で飛行しているせいなのか、全く風の抵抗すら感じない
瞬く間に、中央本部教会の大聖堂を越える
速度は、音速を少し超えるくらいだろうか
にも関わらず、ソニックブームに依る物理干渉が地上に及んでいる様子は無い
実体は在るものの、物理的に物質が移動しているのとは、仕組みが異なるのかも知れないが、ミカエラにそんな難しい理屈が理解出来る筈も無い
「凄いじゃない!
これなら直ぐに着くわね!」
『フフン、どう?見直した?』
一方その頃、東方支部教会の避難民テントでサリエラや教皇と共に朝食を食べて居た大司教ペンティアムは、西の空から異常な速度で急接近する、まだ見えぬ謎の存在に気付き、驚いて食べ掛けのパンを落とした
(何だ、アレは?)
「近衛騎士団!ミレニアム様を、中へ!
サリエラ!!」
「はい!サリエラ・ヴァルキュリア、行きます!」
サリエラが迎撃の為に、空に飛び出した
(この感覚はまさか……
こんな場所で冗談じゃ無い!?)
ペンティアムは急ぎ魔力を展開し、両手の中に圧縮する
凝縮された濃厚な魔力は、光を帯び渦巻いて掌の中で塊となる
「ペンティアム!何が起きている?」
「聖下は中へ!早く!」
ペンティアムは極限まで圧縮した魔力の塊を、振りかぶると思い切り撃ち出した
「当たれーーーっ!!」ズキュウーーーーン!
それは先を飛ぶサリエラの脇を掠め、真っ直ぐにクレセントへと向かって行く
『あっ、ヤバッ!?』
目指す教会の方向に、小さな光が見えたと思った瞬間、クレセントはブレスを吐く
強力な魔力の塊が直撃する寸前に、何とかブレスでの迎撃が間に合う
聖都の空に、巨大な閃光と衝撃波を伴い大爆発が起こる
(チッ、外したか?)
ペンティアムは二発目の為に、再び魔力を練る
「何!今の?」
撃たれたミカエラは何が何だか分からなかった
『あれ、アンタのお師様よ!?』
「え、何で?」
爆煙の中から、小さな影が飛び出し、金色の龍に斬りかかる
ギャリン!『痛っ!?』
音速ですれ違いざまに、頚を狙ったサリエラの一撃が入ったのだ
『くそっ、あのチビ!』
「待って、今のはサリー?」
「え?ミカエラ様!?」
互いを認識して、サリエラの動きが止まった所を、『墜ちろ!チビ!!』怒りにまかせたドラゴンの尻尾で叩き落とされる
「トカゲごときが、私を相手に余所見とは余裕だな!」
ペンティアムが放った二撃目は、数十の魔力弾に別れ、四方八方からクレセントに襲い掛かる
「避けられると思うな?」
『嘘っ、無理!』「ミカ!!」
守護天使のミカが顕現し、ギリギリで魔力障壁を展開し、魔力弾を全て吸収した
(ペンティアム様!ミカエルでございます
攻撃をお辞めくださいませ)
「むっ、ミカエラか?何故トカゲなどと一緒に居るのだ?」
『誰がトカゲですって!?』
クレセントは地上に降り、人間の姿に戻るとペンティアムの前に仁王立ちする
ペンティアムは、女性にしては背が高く、百八十センチは有る
一方、クレセントは成長途上の百二十センチ
まるきり大人と子供だが、クレセントに怯む様子は微塵も無い
「……何だ、この子供は?」
「師匠、この子が例の狙撃犯ですよ」
「ああ、あの変な奴か……成る程な」
「だっ誰が、変ですってぇ?ムキーーーッ!」
怒って殴りかかろうとするが、師匠に片手で押さえられて、全く届かない
「ふむ、子供にしては中々に力も強いな
流石はドラゴンと言ったところか」
「フン、分かれば良いのよ?
私は、金の月の精霊龍様の使途クレセント!」
「ほう……それで、秩序の月の使途様が何用で地上まで来たのかな?」
「貴女のお手伝いをしなさいって、精霊龍様に言いつかったのよ、有り難く思いなさい?」
それにしては、今のところ邪魔しかしてないのだが、自覚は無いらしい
「それより師匠、いきなり攻撃して来ないで下さいよ?驚きました」
「それは此方の台詞だ、愚か者
いきなりドラゴンが飛んで来たら、誰だって撃ち落とすだろうが?」
いやー、
普通は、撃ち落とす発想には成りませんよね?
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