第35話 朝陽の当たる部屋


すっかり風通しの良くなった部屋で、朝の目覚めを迎える


 デュオに頼んで、桶に水を用意して貰うと、床に寝転がって大の字で寝ているクレセントにぶっかける


 バシャバシャ!「プアッッ?」


「おはよう、目が覚めた?」


「はっ、ここは誰?私は何処?」


 状況が理解出来ないのか、周りをキョロキョロと見回す


「中々、開放的なレイアウトだけど、どうしてこんな貧乏臭い部屋で寝てるのかしら?」


 バキッ!


「痛ったあい!?」


 空になった桶で頭を叩くと、呆気なく木桶の方が壊れてしまった

 小さくても流石ドラゴン、無駄に丈夫だわ


「アンタがブレスで壊したのよ!

 覚えて無いの?」


「……え~と、おばさん誰?」

 カチーーン!

「もう一度、その綺麗な目ん玉くり貫いてやろうかしらね?」


 頭を鷲掴みにして、潰す積もりでグッと力を込める


 ミシミシミシッ……


「痛い!痛い?暴力反対!」


「や・か・ま・し・い!」


 身体強化した私の力は、ドラゴンにも通用する事が証明されたわ


「い、今ので思い出した!ガサツで、凶悪なメスゴリラじゃない!?」


 死刑確定ー!

 両拳で頭をグリグリ挟み込む


 メキメキメキ……


「痛い?痛い!痛い!痛い!

 ちょっと、しちゃ駄目な音がしてるってば?

 ブレイク!ブレイク!?」


「産まれた事を後悔しながら逝きなさい」


「ミカエラ様、大司教様にご報告しなくてはならないのでは?」


 チッ、死体でも納得させるわよ!

 と言う訳にも行かないか、仕方無いわね


「命拾いしたわね、デュオに感謝しなさい」


 デュオに手伝って貰い、新しい聖女服に着替えると、浄化の聖魔法を自分にかけてアルコールの影響を消し去る


 髪の毛もサラサラに煌めくし、信徒の信仰心も爆上がり間違いないわね


「たまには外で朝食を済ませまようか?」


「お供致します」


 デュオが恭しく礼をして、外出の準備を始める


「あの、私は……?」


「アンタは壊した壁を、直すまでご飯抜き!」


「ええ~?」


「と、言いたいけど、師匠に合わせなきゃだから一緒に出掛けるわよ、ハァ」


 何か、私だけ貧乏くじ引かされてる気がするわ


 聖都全体に結界を展開して、見守り続けるウリエラは兎も角、ガブルンは何やってんのよ?


 パワーマック伯爵の倉庫強襲の後で一緒に飲んでから会って無いわね

 まぁ、普段からお互い忙しくて、中々会えないけどさ


 そう言えば、この間は久し振りに飲み友(殺友)に再開出来て、テンション爆上がりだったわねぇ

 楽しかったなぁ……悪党一杯殺せたしい♪


「ミカエラ様?

 何やら変な笑顔になってますので、お気をつけ下さいませ」


 デュオの突っ込みで我に帰る、ヤバいヤバい


「このヒト、普段からこうなの?

 アンタも若いのに苦労するわねぇ」


「いえ、お気使い無く……これも、シスター見習い兼、従者のお役目ですので」


 ひとが人類愛と、世界平和について考えてたのに、失礼ねアンタ達


「いや、笑顔が怖いって」

「そうですね、まるで悪巧みをする悪代官みたいな、とでも表現するべきかと……」


 大通りに出ると、朝食を外で済ませる人々の為に、数多くの屋台が軒を連ねている


 そこかしこから、胃袋を刺激する旨そうな匂いが立ち込める


 味噌や醤油で煮込んだ物や、スパイスをたっぷり使った物やらの香りで脳が支配される

 至福の時間だわ♡


「アンタ達、食べたい物が有ったら、遠慮無く行って良いわよ」


「あっ、ミカエラ様?アレなんてどうですか?」

「ん~私は、こっちの何だか辛そうな匂いが堪らないんだけど?」


「はいはい、好きな物を好きなだけ、食べて良いからね?」


 そう言いながら、私は何かの串焼きを三本ゲット!醤油ベースのタレが実に香ばしく鼻腔を刺激してやまない


 たまらず一口かぶり付くと、香ばしいタレの香りに包まれジューシながらしっかりとした肉の旨味が口の中に広がる♪


 ん~ん、旨い!

 コレはアレだわ

 お酒が欲しくなるわね!


 聖女の私が露店を覗くと、アレもコレもと「タダで良いから持ってってください!」と押し付けられるが、デュオがしっかりと代価を支払って回ってる


 当然だけど、良い子だわ


 どうも、聖女の私が「食べ歩き」をすると、「あの店の料理は旨い!」と評判に成るらしい


「片端から全部食べなくてはならなく、なりそうですので、適当な所で切り上げて頂けますか?」


 両腕一杯に、紙袋やら抱え込んだデュオが言う


「え~、私はまだ食べてみたい物だらけなんだけど?何なら端から端まで全部食べた~い!」


 辛い味付けが好きなのか、時々口から「ボッ」と火を吹きながら、クレセントが言う

 人間界の食べ物自体が、珍しくて仕方無いでしょうね


 気持ちは分かるが、そうも言ってられない


 西方支部教会から東方支部教会までは、クレセントやデュオの歩幅に合わせていたら、半日以上はかかってしまう


 着いたらもう、夕刻だ


 私としては、さっさと報告を済ませ、面倒臭いクレセントを師匠に押し付けて、一杯やりたいのである


 口うるさいデュオは、中央本部教会でウリエラにでも預けて、さっさと、自由気ままに酒を飲みたいのだ


「ん?だったら、私に乗ってけば良いじゃん?」


 何ですと?

 今、聞き慣れないフレーズが聞こえた気がしたので、もう一回プリーズ?


「だから、ご飯のお礼に、私が「龍の姿」に戻るから、特別に背中に乗せてあげるって!」


得意満面で、鼻息荒くドヤ顔のクレセントが言う


マジ?





 

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