第6話 勇者の証明・人間の証明


お勤めが終わったウリエラと一緒に、小洒落たレストラン(主に貴族様御用達)のオープンテラスでランチを頂いた


 ビーストボアの腿肉のソテーに季節の野菜添え、ホワイトマッシュルームと車海老のクリームパスタ


 シェフのお勧めメニューは確かに、複雑な味わいで、私が普段利用している居酒屋のおつまみメニューとは格が違い過ぎて、正直「美味しい」としか言いようが無い


 久しぶりに私と再会出来た嬉しさからか、ウリエラのお喋りは止まる事無く、私が聖都に居ない間、如何に自分が寂しかったか、どれだけの信徒に祝福を授ける事が出来たかを繰り返し告げるのであった


 見返りを求めない無垢の好意が眩しくて、なんだか適当に相槌を打ってしまう自分がいたたまれなく為る


「あらぁ、ミカエラじゃない!

 貴女も此処に来てたのね?」


 店の格式から外れた明るく大きな声に振り向くと、南方支部教会勤めのガブリエラが居た


「えっ?

 ガブルン!どうして此処に居るの?」


「もうっ、何よ?そのガブルンって、

 止めてよ」


いやいや、歩く度に身体と巨大な胸が時間差でブルンブルンと揺れてますから!


 私よりひとつ歳上の、南方支部教会勤めの巡業聖女ガブリエラが、満面の笑みを浮かべてやって来ると、空いている椅子に座った


「いやあ、本当に久し振り!

 大司教様のお呼び出しを受けてやって来たら、まさか貴女達と遭遇出来るなんて、女神様の思し召しねっ!」


 と言うか、人外師匠の陰謀としか感じられないのですが?私としては


 南方支部教会所属の巡業聖女ガブリエラ

南国出身特有の小麦色の肌に、赤毛巨乳の聖女である


 私と同じ巡業聖女だが、彼女が担当する南部地域は、西方領ほど瘴気の影響が少ないせいか、魔物の活動も少なく済んでいるらしい


 そりゃそうだ

言い伝えによると、南大陸は昔、師匠が隕石墜としで消滅させた伝説が残る

 魔物だろうが瘴気だろうが、一網打尽で壊滅させられた筈だ


 伝説の主が未だに健在で、生きてるってのが、一番の問題な気もするが


「貴女が呼び出されるなんて、また何をしでかしたの?」


「やだぁ、ミカエラじゃあるまいし、悪さして呼び出された訳じゃ無いわよ?」


 ナニかい?

 私は叱られるのが前提条件な訳?


 「なに言ってるの?

 「血風聖女・アイアンフィスト」の渾名は今や大陸中に広まって超有名人よ、貴女?」 


 うおーい、止めて欲しい

 一欠片も悪気の無いツッコミにどう返したら良いってのよ?


 そう、ガブリエラもウリエラに負けず劣らずで超天然娘なのだ

 何事も、どんな艱難辛苦すらも、まるでそよ風の如く右から左へ受け流せる素質の持ち主である


 その底抜けに明るい性格と、愛嬌たっぷりの美貌に、健康的な「巨乳」の相乗効果か、彼女の人気はすこぶる高い

 主に男性信者に


 て言うか、まさか私の事まで吟遊詩人が謳っているとは知らなかった

 見付けたらキッチリ「お話し」しないといけないわね、これは 


「お話し」とは当然、人類愛と正義についてとことん語り合う積もりよ?

 相手が納得するまで、誠心誠意語り尽くしましょう

 それこそが聖女の務めではないだろうか

うん、間違い無いわね!

 きっと師匠も後押ししてくれるに違いない


「そういうところですよミカエラ様」

「び、びっくりした!

 なによデュオ?何処から湧いて出てきたの?」


「人をGみたいに言わないでください

 大司教様とのお話しが終わるの待ってたのに、何時の間にか居なくなって、探しましたよ」


 むう、師匠と言い、デュオと言い

 勝手に人の心を覗き過ぎなのでは?

 しかも見事な気配遮断

て言うか、見習いシスターの癖に変なスキルに目覚めたのかしら?


「ミカエラ様は顔に出過ぎですから」


 はあ、とため息を吐いて従者らしく私の後ろに控えるデュアルコア

 出来た子だなぁ


「でもでもっ、そこがお姉様の素敵なところです!人間素直が一番ですわ!」


 満開の笑顔で、すかさずウリエラがフォローしてくれる

 良い子だなぁ


「で?結局師匠の用事って何だったのよ?」


「ああ、それがね?

 昨年ラファエラが結婚して、聖女を引退しちゃってから、東方支部が空席じゃない」


「そう言えば、もう半年以上になるかしらね」


 私の行きつけの居酒屋の女将、「ラファ姉」は元東方支部教会所属の巡業聖女だ

 聖都で居酒屋を営む若者に求婚され、昨年めでたくゴールイン


 祝福と共に、聖女引退の儀で聖魔法などの奇跡の力を女神様に返上して一般人へと戻っている


「あ~あ

 ラファ姉はとっとと結婚しちゃうし、どっかに良い男が落ちて無いものかしらねぇ」


 ラファ姉は東部出身の黒髪、黒目が特徴的な落ち着いた雰囲気のお姉さんだった

 何て言うか、家庭的な雰囲気があって庶民受けが良く、数多くの男性から求婚の申し出をされていたのだが、聖女で在ると言う立場から教会側が全て断り続けていたのだ


 今回、それが許されたのは、そう

 ラファ姉の妊娠が発覚したからである


「出来たで結婚で、寿退社が認められるなら私なんて何時でもウエルカ~ムなのに

 世の男共って見る眼が、無いわよねぇ」


「ミカエラ様、聖女にあるまじき発言はお控えくだい」


 デュアルコアがジト目でため息を吐く


「そ~よ?それでなくとも、ここ数年

 新たな聖女が産まれていないのに、ミカエラまで居なくなったら大変よぉ?」


「ガブルンは良いわよね、そのプロポーションのお陰で選り取り見取りって噂じゃない」


「お姉様だって、まだまだ若いのですから、これから大きくなるんですよ、きっと

 女神様の愛は全ての信徒に平等です!」


 ウリエラよ

 傷口に塩を塗るような行為だよ

 女神様の愛は平等でも人の容姿は不平等なんだよ


「ああ~、私だってもう18よ?ジュウハチ!

 普通の女性なら、とっくに結婚して子育てしててもおかしくない年齢よ!?

 若い身空で行き遅れなんて呼ばれたく無いのよ私は!!」


 この世界では15歳で成人し、結婚するのが普通だ

 18歳は立派に行き遅れと見られてもおかしくない


「あらあら、まるでサカリのついた雌豚ですわね?天下の往来でみっともない」


 聞き捨てならないセリフに思わず振り返ると、そこには純血王国人特有の金髪碧眼の女騎士が薄ら笑いを浮かべて立っていた


「何だぁッッ!?

 あんた喧嘩売ってるの?ヨシ買った!!」


 勢い良く椅子を蹴り飛ばして立ち上がったが、デュアルコアが慌ててすがり付く


「いけません!我慢してくださいミカエラ様」


「いーやっ、勘弁ならねえ!

 土下座させた頭踏んづけて地面にキスさせてヤらなきゃ、私の気が済まねぇ!!」


「あ~やだやだ

 下賤の蛮族は血の気が多くて嫌ねぇ

 こんなのが聖女を名乗るだなんて世も末だわ」


「んだとおっ?

 やい、てめえアップル!ふかしてんじゃねえぞコラ?聖剣開放も出来ないクソビッチがぁ!」

「何ですって!?」

「貴族を傘に着やがって気に入らねぇんだよ!

 構う事ぁ無ぇ、抜けよ!

 来いっ、卍丸!」


 私が聖印を切り呼び掛けると、異次元に収納されていた聖剣が掌の中に顕現する


「どけっ、デュオ!

 って言うかガブルンも放しやがれ!?」


 いつの間にか背中からガブリエラに羽交い締めにされていた

 私が抜剣したので慌てて取り抑えたようだ


「止めんか、みっともない」


 犬歯を剥き出しに威嚇する私の肩に手を置き、金髪碧眼の大男が仲裁に入る

「気安く触んじゃ無えッッ!」バキッ!

 すかさず顔面に裏拳を叩き込む

「インテ様!」「団長!」「貴様ぁ!」


 取り巻きの聖騎士連中が殺気立つ

少し歳かさの女騎士がハンカチで大男の鼻血を拭きながら


「元勇者のインテ様に、この蛮行

 例え聖女様と言えど看過出来かねます」


「良いんだ、ヴィー

 迂闊に女性の身体に触れてしまった僕が悪い」

「しかしっ」


「はっ、飽くまで「元」勇者だろーが?

 しかも魔王を封印したのは、「聖光の大賢者」ペンティアム様だ、勇者なんて聖剣が無けりゃ只の足手まといじゃ無えか」


「いやあ、相変わらす手厳しいなあミカエラちゃん」


 勇者インテ・ルインサイド

魔王封印戦争で聖光の大賢者ペンティアムと共に協力し合い、女神様より賜った聖剣をふるい見事に人類を救ったとされる救世の英雄  


 聖王国復興後は、聖騎士近衛団長として後進の育成と王国の治安維持に努め、不本意ながら私の剣術師範でもある


 もっとも、頼みの聖剣は使いこなす事も出来ないまま、弟子の私があっさりと「開放」してしまって免許皆伝と成ったのだが、そんな事実を民衆に知られては都合悪い為に関係者全員に箝口令が徹底された


 巡業聖女の私が愛用する武器が伝説の聖剣では都合上宜しく無いだろうと「卍丸」と名付け、刃引き迄して、飽くまで不殺の鈍器として体裁付けているのである

 因みに、勇者が名付けた銘は「聖剣・オーバークロック」何だそれダッセエ

 聖剣握ってると、実力以上の力が湧いて来るんだと

 笑わせるわね


 卍丸は私の魔力を流す事で自在に姿形を変更出来る上に、刃引きしてるにも関わらず魔鉱石ミスリルの塊さえ豆腐の様に切り裂ける

 更に、不浄の穢れを祓い、アンデットに特攻が在るから巡業聖女の相棒にもってこいである


 師匠に言わせると「考えてみれば、勇者の役割って、貴女に聖剣を授ける事だったのかもねぇ」と辛辣である


「団長!私に聖剣を取り戻すチャンスをお与えください!」


「う~ん……でもねぇ」


「私からもお願いいたします」

 歳かさの美人が口添えすると

「まあ、ヴィーに言われちゃ仕方ないなぁ」


 女誑しめ

 


 


 


 


   

  


 



 

 

 

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