第7話 伝説の引き籠り


大聖堂横に聖騎士団詰所と厩舎が在る

その裏手の練兵場で私は聖騎士アップル・パワーマックと対峙する羽目になった


 大司教ペンティアム師匠に云われ、優柔不断な元勇者の元で、共に剣技を学んだ仲であるが、残念ながら私は剣術に関しては天賦の才に恵まれていたらしく、入門四日目にして聖剣開放に成功してしまったのである


 聖剣


 勇者インテ・ルインサイドが成人と共に天啓を受け、女神様より賜ったとされる、邪を祓い、魔族に特攻を持つとされる、伝説級の出鱈目な武器である


 本来ならば


 人類が生き残りを賭け、勇者と大賢者に希望を託した結果、魔王を封印する事には成功したが、実のところ勇者インテは聖剣の力を万分の一すら引き出せていなかったのである


「本来は勇者である僕の愛刀なんだけどなぁ

 聖女のミカエラちゃんが開放出来ちゃったのは、やっぱり信仰心の差なのかなぁ?」


 師事当初から持ち前の女癖の悪さを発揮しまくりな糞勇者は、事あるごとに私の身体に意味も無く触りまくり、その度に死なない程度に「天罰」を与えては回復させてを繰り返したので、師匠の言い付けとは言えど良い加減嫌気が差していた

 そんな時、試しにと聖剣を握ってみたら、不思議な事に聖剣が私に語り掛けて来たのだ

 

「汝、我の名を呼ぶべし」


「えーと……おーばーくろっく?」


「汝、我の名を呼ぶべし」


「…………じゃあ、卍丸で」


「契約は成された!」


 鮮烈な光と共に聖剣は姿を消したが、それが聖剣開放の瞬間だったのかもねぇ

 異次元空間とやらに引き籠った卍丸は、以後私の呼び掛け以外には反応しなくなった


 あの時のインテ様の顔はおそらく生涯忘れない


 事の顛末を聞いた師匠は文字通り腹を抱えて笑いまくり「良くやった!流石、私の愛弟子!!」と褒めてくださった


 まあ、そんな経緯で聖騎士団の方々からは「神聖な聖剣をインチキで横取りした卑怯者」呼ばわりされている


「不埒極まりない贋聖女の化けの皮を剥がしてやるから覚悟なさい!」


 よほど自分が、年下の私に先を超されたのが悔しいのか、やたらと敵愾心をぶつけて来るんだよなぁ、この人


 て言うか、18歳の私が生き遅れを気にしてるのに、この女騎士さんは確か26歳なのに婚約者すら居ないんじゃ無かったっけ?

 まあ、売られたケンカを買わずに済ます道理は無いよね


「上等だ、このタコ

 ウダウダ言って無ぇで、かかって来な」


 一応、正式な決闘では無いので、真剣では無く木刀での立ち合いとなった

 流石に聖騎士団vs聖女で流血の事態は避けたいのだろう

 聖王国の根幹に関わる不祥事なのは間違いない


「はあっ!」


 身体強化で一気に詰め寄り、初手から烈迫の突きを放ってきた

 悪く無い

 が、甘い

 甘い甘い甘い甘い甘過ぎる!


「ふん」


 太刀筋を見切った私は、半身をずらして回避すると、隙だらけのアップルの小手を強かに打ち据える

 バシッ!カラーン


 アップルの手から木刀が落ちた

利き手の手首が紫色に腫れてるから折れたわね 

 しかし、「勝負有り!」の声は聞こえない

って事は、まだ続けて良い訳よね?


 悔しそうに私を睨みつける彼女に


「拾わねえのかよ?

 もう、降参か?土下座するかあ?」


 慌てて木刀を拾おうと屈んだところを、横合いから蹴り飛ばす

「ゲホッ?」

「甘えんだよ、お嬢様」


 無様に倒れた彼女の髪を掴み、無理矢理立たせると、木刀を捨てて、容赦無く顔面に拳を振るう


 ボカッ!バキッ!ボクッ!ドカッ!


「ひゃ、ひゃめ……」


 聞こえな~い


 バグッ!ドカドカッ!ボカッ!ボキッ!バキャッ!バシッ!ビシッ!ベキャッ!グシャッ!グチャッ!ベチャッ!グチョッ!


 血肉と折れた歯が舞い飛ぶが、気にせず殴り続けた

 既に気を失ったのか、全く抵抗もせず殴られるままのサンドバック状態だ


「詰まんねえ、飽きた」


 手を放すと、力無く足下に崩れ落ちる

 俯せになった頭に足を乗せ、グリグリと踏みつける


「敗北と言う名の、地面の味はどーだい?お嬢様?」


 小綺麗な顔を集中的に潰してやったから、顔面崩壊してるだろうな

 後でウリエラに頼んで治療して貰うが良いさ


「その、汚い足をどけなさい!」 

 

 

 

 

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