第49話 大気圏再突入


セレロンが糞勇者を塵一つ残さず消し去った


 存在の全てを、一瞬で破壊し尽くしたエネルギーは凄まじく、クレーターの中心部は陽炎が立つ程の熱量に覆われ、地面はガラス状になっている

 クレセントが酔っ払って放ったブレスとは、桁違いの威力だ

 上空には、高さ数十キロに達しそうな巨大なきのこ雲が昇っていた


 しかも、膨大なエネルギーが爆散しない様に、インテだけを囲う様に魔力障壁の結界を展開していた

 それでも、これだけ吹き飛ばされたのだが


 魔剣は消えたのか?


 少なくとも、そこに魔剣の姿は残っていない

「終わった……のか?」

「ミカエラ様、傷は?治りましたか?」


 ミカが心配してくれるが、傷そのものは既に塞がった様だ

 ミカが治癒の聖魔法の効き目を、向上させてくれたのだろう


「心配かけたわね、ミカ、ご免なさい」

「い、いいえ!ご無事なら良いんです……」


「何なの?このふたり」

 サリーが若干冷めた目で見てるわ


「守護天使と、その主よ」

 クレセントもジト目で睨んでる


 何よアンタ達?文句でもあるの?


 と、その時、大聖堂の方向で強大な魔力が放たれたのが感じられた

「何?」

 大聖堂の上空に黒雲が立ち昇ると、炎を巻き上げ火災旋風となっている


 師匠達に何か有った!?

「ミカ、サリー、師匠と連絡は?」

「え、……繋がりませんね?」

「ほんとだ?変ね?」


 不味い、緊急事態だわ!


「クレセント!乗せて!」

「勿論!でもその前にさ……」

 え?何?急ぐんだけど?


 クレセントが卍丸の使い方に、斬新なアイデアをくれた

 ドラゴンで急行すると、着地のショックに人間は耐えられない

 そこで、セレロンの黒鱗鎧装をヒントにして、卍丸を鎧の様に変化させて肉体を護ったらどうか?というものだ

 ただ身体の外側を覆うだけで無くて、血管や神経系にまで、極細の聖剣を張り巡らせて数百Gの急激なショックから護ろうと言う訳だ


 考え付かなかった

 目から鱗だわ

 やってみよっと


「ノリが軽いわね」

 クレセントがちょっと引いているけど、無視


 身体の隅々まで、卍丸を行き渡らせるイメージで……「聖剣凱装!」


 卍丸が身体の奥深く、隅々にまで浸透してゆくのが分かる

 嫌な感じは全く無い

 使い慣れた卍丸とは相性が良い

 神聖な力が満ちて来る


 全身を、卍丸の鎧が覆っている

「……行こうか」

「思ったよりカッコいいわ……」


 何故かクレセントが赤くなってる


 黄金のドラゴンに変化したクレセントに飛び乗ると、サリーに「大聖堂に向かって」と告げて上空へ飛び上がる


「魔力の元を潰すわ、来た時みたいに出来る?」

『任せて』

 クレセントはグングン上昇し、遂には大地が丸い球体だと分かる高さにまで達した

『行くよ』

 一言伝え、クレセントは地上の敵目掛けピンポイントで大気圏再突入した


 グングン速度が上がり、魔力でコーティングされたクレセントの周りが、大気との摩擦で紅く染まり、やがて炎の塊になる

 速度が速過ぎて、赤い炎が青く変わり、一条の閃光と成って地上目掛けて落下した


 見える

 私にも敵が見える!

 

 強化された視神経と動体視力が、目指すべき着地点を明確に捉える!


 あれは、探してた行方不明の見習いシスター!

 モトローラの姿を借りた何か!!


 隣の火災旋風の中に何かいるけど、取り敢えず舐めた真似してくれたアイツに、キツイのを一発かましておかないとね!?


 ほんのコンマ数秒の合間に、狙いを定めると、クレセントの背から離れてモトローラ目掛けてマッハ10の流星キックをブチかます!

 何か喋ってるけど、無視!


「させるかよ、糞が」



 

 

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