第29話 天使の羽衣とハリセンと


大将から粗縄を借りると、取り敢えず正体不明の不審少女をグルグル巻きに転がして、私は一気に流し込んだビールのお代わりを頼む


「ラファ姉!お代わり!」


 ドンッと大ジョッキがカウンターに置かれる


「良いけど、大丈夫なの、この子?」


「あー、大丈夫ダイジョブ

 気にしない、気にしない

 ちょっと、師匠にお使い頼まれたのよ」


「あ、あぁーーー」


 それ以上は、聞かなくとも察するラファ姉、

 宙に目線を逸らすと厨房に引っ込んだ

流石、元巡業聖女、師匠への理解が半端ない


「ミカエラ様、そういう所でふよ?」


「な、何よミカ?いきなり」


「親しき仲にも礼儀あり、って言うじゃありませんか?ラファエラ様は、元とは言え聖女の先輩だったのですから、きちんとお話しをしゅべきだと思います」


「え、どうしたの?ミカ、酔ってるの?」


「私がっ、酔う訳、無いじゃないれすか?

 大体、ミカエラ様はペンティアム様の事をないがしろにし過ぎだと思いまふ」


 駄目だ、ミカがおかしい

 ……ん?ミカったら、この子が飲み残したビールを舐めてるわね?


「ミカ、ちょっとソレ寄越して!」


 私はミカから半分飲みかけの大ジョッキを取り上げると、一口飲んでみた


「……何よ、コレ!?スッゴい濃い魔力!?」


 正体不明の少女が飲み残したビールは、あろうことか濃厚な魔力が残留していた


 どうやら、ミカは濃過ぎる魔力に、当てられて魔力酔いを起こしたらしい

 え、マジで?

 ミカもお酒に酔うんだ!

 いや、お酒じゃ無い、魔力か


「ちょっっとおぉ~、どうひて、わらしが飲んでるのを、取り上げらんでふかぁあ?」


 駄目だこりゃ

 ミカって酒癖悪かったんだ?


「……ミカ、ハウス」


 仕方ない、一旦お帰り願おう


「なりお~う?

 わらひを、犬扱いっしないで、くらさいっヒック?」


 ゲッ、酔っ払って言うこと聞かねぇ?


「それにひても、ここは暑いれふねぇ」


 何故か脱ぎだすミカ


 いや、魔力の存在でしか無いアンタが、寒いとか暑いとか無いでしょ?

「ちょっとミカ、ストップ!止め止め止めなさいってば!」


 慌てて止めようとするが、ミカは構わず脱ぎ続ける

 魔力であるミカの服も、当然だけど魔力でしか無いのだから、脱げるってのも変な話しだけど


 店内で飲み食いしていた他のお客さん達が、一斉に押し黙ってガン見している


 守護天使の体型は、召還主に左右される

 ウリエルは幼い少女体型だし

 ガブリエルは豊満な大人の女性の姿だ


 つまり、ミカの見掛けは私に似てるのだ

 冗談じゃないわ!

 まるで、私が大衆の面前でストリップしてる様なものじゃないのよ!

 とうとう、ミカが最期の一枚に手をかけた


「来いっ、卍丸!」


 聖剣を顕現させると、すかさず魔力を流して大きなハリセンに変化させる


「いーい加減にしなさあーーいいっ!」

 バッシーーーーン!

 魔力を込めた一撃を食らわすと、ミカは消えた


 その後、店内に居た全員に、記憶操作を施したのは言うまでも無い


いっそ、皆殺しにしようかしら........



 

 


 

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