第20話 狂宴/凶宴


吹き飛んだ扉に足をかけ、大声で啖呵を切る

「オラァッッ!

 糞パワーマック、ブッ殺してやるから出て来いやあ!!」

「ミカエラ様、殺しちゃ駄目ですからね?」

 煩えなぁ、んじゃ伯爵以外は皆殺し

「屋内では雷撃も使えませんから、私も斬って良いですよね?」

 サリエラがショートソードを抜き放つと、刀身に魔力を纏わせているのか、仄かに鈍く輝いて見える

 なにそれ格好いい

「卍丸、来い!」

 聖剣が掌に顕現するや、私も魔力を流し長剣を双刀に変化させると、居並ぶ敵に斬り込んでいく


 ミカは喧騒の中、静かに歌い出した

 私の殺る気を上昇させ、敵の心に恐怖心を植え付ける聖魔法だが、薬物で正気を失った相手には効果が薄いかもしれない


 剣を振りかぶった男の腕を落とし、もう片方の剣で身体を真っ二つに切り裂く

 横から突き出された槍を、くるりと躱すと相手の首を飛ばす

 血飛沫がかかる前に歩を進め、剣や大槌を構える敵を片っ端から斬り捨ててゆく

 武器を受ける必要も無い

 卍丸に触れた端から、武器だろうが肉体だろうが鎧だろうが関係無く分断される


 サリエラもショートソードに魔力を纏わせているせいで、一見短く見えるリーチの差を、見えない魔力の刃で補っているみたいだ


 全く、剣先の届かない場所で、男達の首が飛び、身体が斬り捨てられている

 て言うか、出鱈目だなアレ


 玄関ホールを血の海に変え、邪魔者を排除しつつ二階へ通ずる螺旋階段を駆け上がる

 反対側からはサリエラも、昇って来る

ミカの歌の調子が変わり、今度は私の疲労回復と、集中力回復効果を補助してくれた

 身体が芯から暖まり、意識が冴えていく感じがする


 自分では気付かないが、朝からずっと闘いっ放しで疲れが動きに出ていたのかもしれない

 流石、出来る天使は違うわね


 それにしても、たかが伯爵がこれ程の人数を動員出来ているのが驚きだわ

 しかも、絶対的な戦闘力の違いで、勝てる見込みも無いにも関わらず、誰も逃げ出そうともせず襲い掛かかって来る


 瘴気に蝕まれた人間は、正常な思考が出来なくなり暴力的に変化し、犯罪に走り易くなる

 そんな瘴気を日常的に摂取し続けると、殺戮衝動に囚われ、やがて人間性を失った魔物に堕ちてしまう


 そうなる前に対処するのが自警団であり、聖騎士団の役割だった筈だが、元勇者インテの奸計で治安は悪化、瘴気の籠った薬物汚染が蔓延してしまった


 インテには逃げられたが、魔薬流通の元締めはパワーマック伯爵で間違いないだろう

 権力で隠蔽と融通を利かせて一気に広めた訳ね


 廊下を突き進み、一際豪華な扉を遠慮無く蹴り破ると、巨大な戦斧の一撃が待ち受けていた

 ブオンッ!ドガン!!

 横ざまに振り抜かれた一撃は、ミカエラを外し部屋の壁を破壊して止まる

 頭を下げて飛び込んだついでに、大男の片足首を切断してやった

 バランスを崩し倒れる大男の首がサリエラに依り落とされる、ゴトンと分厚い絨毯に落ちた頭部は見る間に血溜まりを作ってゆく


 あれ?コイツが伯爵だったら不味いわよね?

 殺っちゃった?ワタシ?


「貴族なら、もっと上質な服を着てると思われます、恐らくは伯爵の手下で間違いないかと」

 すかさずのフォローありがとうねミカ♡


 考えてみると、私は伯爵の顔なんて知らない

もし、今まで斬り捨てていた賊徒の中に紛れてたりしたら……

「ミカエラ様、これではありませんか?」

 サリエラが壁にかかる肖像画を指して言う


 そこには、幼い頃の娘アップルを抱く男性の姿が描かれてある

 サリー、グッジョブ!


 ガラガラガラガラ!


 裏手から馬車が走り去る音が響く

 もしかして逃げられた?


「悪党の元締めですから、自らは魔薬摂取しておらず、多少は判断力が残っていたのかもしれませんね」


 二階の窓から裏通りを覗くと、遠ざかって行く馬車が見えた


 ちょっと追い付けそうには無い


「面倒臭い事になったわねぇ」

「翔べば追い付けるかもですが、申し訳ありません、ちょっとスタミナ切れです」


 サリエラが汗をかき、肩で息をしている

 いやいや、小さな身体で頑張ったわよ

 お姉さんがヨシヨシしてあげよう


 私がサリエラの頭をナデナデしてると、何故かミカがピトっとくっついて来た


「え、なに?」

「私も撫でて欲しいです」


 そんな美人に上目使いでお願いされては断れないわよ!?


 悪党にはまんまと逃げられたものの、二人をナデナデして癒されまくっていると、突然、疾走する馬車が爆散した

 ドッカーーーーンッッ!


 え?

 私じゃ無いわよ?

 

 


 

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