第2話 天使の膝枕は幸せの香り
チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえた気がして、私はゆっくりと意識を取り戻す
開け放たれた窓に揺れるカーテンの隙間から微かに陽の光が射し込む
ベッドに横になったまま静かに眼を開けると、目の前に神秘的な美しさの美女の顔が私を覗き込み慈愛に満ちた微笑みを向けてくる
「...えーと」
「お目覚めになられましたか?おはようございます」
聖歌隊の奏でる聖歌の様な美しい声で挨拶され、相手が誰か認識して現状を把握する
どうやら、この絶世の美女に膝枕をされつつ優しく髪を撫でてもらっている自分がいる
「おはよう、ミカ
また、ヤっちゃった?」
「はい、昨晩はお帰りになられて私を召還され、深夜遅くまでお酒をご一緒させて頂きました」
酔漢共を成敗した後、居酒屋の女将ラファ姉に断られ、仕方無く帰宅しても全然飲み足りなくて焼酎を手酌でチビチビ飲んでいたのだが、ひとり酒が寂しくて天使を召還し飲み潰れるまで付き合わせたのだ
もっとも、天使のミカは実体を持たないので、幾ら飲んでも酔ったりはしないのだが
それでも、こうして私に触れたり、飲食が可能と言うのは随分とご都合主義と言うか、まさに人外の神秘であろう
それにしても良い香りで満たされてるなぁ
膝枕は柔らかくて暖かいし、なんならこのまま昼まで二度寝したいなぁ
なんて不謹慎な事を思っていると、やや乱暴にドアがノックされる
「おはようございます、ミカエラ様
入りますね」
入室の可否すら問わずドアを開け放ち、見習いシスターのデュアルコアが煎れたてのコーヒーとスクランブルエッグを載せたお盆を手に入ってくる
と、床に転がった幾本もの空き瓶に足を取られて、まるで漫画の様にステーンと派手に転ぶ
ちなみに朝食の載ったお盆は天使がそつ無く掬い挙げて無事である
「あらあら、朝から騒々しい
躾がなってませんわねシスター見習いさん」
「いたた
またお酒の空き瓶を転がしたままに!
きちんと片付けて下さいね!」
当然だが、随分とおかんむりである
「あーそりゃ無理よお、寝落ちする迄徹底的に飲むから」
ケラケラと悪びれもせずに笑う私をキッとひと睨みすると、少女は空き瓶を片付け始める
「貴女もミカエラ様の守護天使なら、後片付けくらい出来ないのですか?」
「ミカエラ様、
はい、あ~ん」
「ありがとうミカ」
超絶美形に卵を「あ~ん」して貰う
なんと言う至福な時間だろうか
「ちょっと甘やかさないで下さいよ、
無視すんなこの駄天使!!」
ミカの手が止まり、慈愛に満ちた微笑みがさらに笑顔に変わる
が、部屋の温度は急激に下がった様な気がする
「...今、何て言いました?このメスガキ」
湯気を立てていたコーヒーの表面に瞬時に氷が張り、暖かかったスクランブルエッグがパキパキと音を立て凍り付く
ヤバい
ミカの奴マジでキレてる!
「ちょ、ちょい待ち!ミカ、ハウス!!」
慌ててミカの召還を解除する
「あー、怒らせちゃったなぁ
天使にケンカ吹っ掛けるなんてデュオも恐いもの知らずねぇ」
「笑い事じゃありません、ミカエラ様」
デュアルコアは私付きの侍女兼見習いシスターだ
今年10歳になる茶髪でくりくりとした茶色の瞳がチャーミングな少女である
両耳に切り欠きが在るのは、過去に誰かの所有物であった証だ
数年前に違法な奴隷商組織を壊滅させた際に開放してあげた孤児だ
救出した時には歯も無く、片目が潰され、左手は親指と小指以外切り落とされ酷く衰弱していた
行く宛も引き取り手も見付からなかった為に大司教が私付きにして回復させ世話をする羽目になった
だが、耳の切り欠きだけは本人の希望で修復せずにそのまま残されている
「私は生涯ミカエラ様に支える身で在りたいと思ってます
救ってくださったご恩は一生かけて償わせて頂きます」
いや、重いってば
カチカチに凍った朝食を前にため息をつくのであった
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