第3話 天国に一番近い花園
デュアルコアに手伝ってもらって聖衣に着替えると、自身に浄化と治癒の聖魔法をかける
自室から出ると深酒の影響は微塵も感じられず、ボサボサだった髪も朝陽に煌めく銀髪へと早変わり
「相変わらず聖魔法の無駄使いがお好きですね」
焼酎の空き瓶を抱えたデュアルコアがため息を吐きつつ付いて来る
「淑女の嗜みってヤツよ」
「本物の淑女は居酒屋で泥酔した挙げ句、襲ってきた暴漢を返り討ちにしたりしませんよ」
はぁ、とため息を吐くデュアルコア
ため息ばかり吐いてるとババアになっちゃうぞ?
て言うか、昨夜の騒動を何故知ってるのだろう?
「何故バレないとお考えなのかが不思議です
自警団から聖騎士団に通報が有り、その件で大司教様へ報告する様に仰せつかっております」
「あちゃー」
思わず頭を抱えたくなる
「ペンティアム様かぁ」
大司教ペンティアム
聖教会内で、教皇の次にお偉い様で、あろう事か私の個人的な後見人であり魔術の師匠でもある
要は公私共に逆らえない上司と言う訳だ
お飾り的な教皇と比べれば、実質的なNo.1権力者と言っても差し支えない
何より恐ろしいのは、権力を裏付けられるだけの絶対的な実力を個人が保有している事実だ
嘘かまことか、数十年前の魔王封印戦争に於いて常識外れの魔法を行使し、空に浮かぶ月をひとつ吹き飛ばした挙げ句、隕石を召還して大陸ひとつを丸ごと消滅させたとか
戦争の余波で世界が暗黒に覆われ大津波に襲われた際に、大天使を四柱も召還して人類滅亡の危機を回避したとかホント規格外にも程があるわ
ある意味魔王より恐い人類最大の敵じゃないかしらね
などと不敬極まりない事を考えつつ、デュアルコアを引き連れ聖教会本部大聖堂へ足を向ける
私が普段勤めるのは聖都の西側に位置する支部教会だ
聖都には中央に聖教会本部、大司教の居る大聖堂を見下ろす丘の上に教皇聖下と聖王が住まう白亜の居城が在り、東西南方に支部教会が存在する
「龍脈」と呼ばれる地下を巡る魔力溜まりの真上に本部が建てられ、聖印を刻む形で各支部が建てられていると教えられた
更に、緻密な魔方陣を描く様に街路が設計され、聖都は街全体が巨大な魔方陣として魔王を封印する機能を果たしているのだとか
人々が其処に暮らし、営む事で聖なる結界を構築し続け、永遠に不浄なる魔王の復活を防ぐのだとか
つまり、聖都の地下深くには魔王が封印されている訳だ
師匠曰く、アレは滅殺不可能な存在だそうだ
恐らくは神や天使と同じ様に、この世ならざる理屈が働いているのだろうが、私には到底理解出来そうに無い
「お姉様あ!」
私を姉と呼ぶ弾む声と共に大聖堂入り口から小柄な少女が駆けて来る
史上最年少で聖女の試練を合格し、誰よりも数多くの奇跡を為し得る天才聖女「ウリエラ」
今年14歳になる若き後輩は輝く笑顔で私の胸に飛び込んで来た
「お久し振りです、お姉様!」
「ええ、私が西方領へ巡業に出る前だから、かれこれ3ヶ月振りかしら?」
「108日振りですよ
毎日、お姉様の無事を女神様に祈っておりました」
「お陰さまでこうして無事に再開出来たのだから女神様に感謝しなくちゃね」
「はい!勿論です!!」
ああ、尊い
可愛らしさ全開である
なんて言うかこの娘が笑うと、辺り一面に花が咲き乱れるんじゃないかと思えてくる
「ウリエラ様の100分の1でも可愛気が欲しいですねミカエラ様」
デュオさんや、一生かけて恩返しする相手に対して、それはあんまりな物言いなのではあるまいか
しかしまぁ、ウリエラに巡業聖女はさせられない
彼女は聖教会本部に救いを求める信者に奇跡と癒しを与える大切な存在なのだ
彼女には戦闘向きのスキルは無い
巡業聖女は地方に赴き、瘴気を鎮め魔物を討伐し人々を救うと言う使命が在る
そんな殺伐とした生活を送らせる訳にはいかないのだ
彼女には華々しい中央での活躍と称賛こそが似合う
彼女の笑顔と人々の安寧の為なら、幾らでも不浄にまみれ殺戮を捧げよう
私は密かに永遠にこの花畑を守り抜こうと決意した
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