第11話 星降る夜に


昼間に死ぬ程(実際死んでるけど)いたぶられてるのに、策を弄せば勝てるとでも思ってるのかしらね?


 縛られていたのは、やはりラファ姉の旦那さんだった


「助けに来ました、もう大丈夫ですよ」

 ガブルンが縄を解いて介抱している

彼女も「治癒」の奇跡を使えるから、任せておけばまあ、大丈夫だろう


 それよりもだ……


 倉庫の大扉がギギーと開けられ、何人かの武装集団がガチャガチャと入って来た(様に見える)


「良ーし!全員動くな!!」

 自警団と聖騎士団を引き連れた勇者インテが現れる

 しかし、金魚のフン(ヴィー)は居ない


 そりゃ、こんな猿芝居に公爵令嬢は巻き込め無いってか?

「これは、これは?

 勇者様直々、こんな場所へ何の用ですかぁ?」

 わざとらしく煽りを込めて睨みを効かせると、インテは辺りを見渡し

「ここで、賊共が違法薬物の取り引きを行っている疑いが有るとパワーマック伯爵からの密告が有ったのさ、家名の汚辱を灌ぐ為にアップル以下数名の騎士を先行させたが、見事に賊を討ち取った様だね!感心、感心」

 呆れる程良く回る舌だ

 勝手に幕引きを図り、無かった事にする腹積もりかしらね


「へえ?違法薬物ねぇ?」

「そこの生き残りが証人と成るでしょう、連れて行ってくれるかな」

 自警団の数名がラファ姉の旦那さんを連行しようと立たせるが、ガブルンがそれを止める


「私達がね、いつ此処に来たか知ってるわよね?」

「……何の事かな?」

「この人は、元聖女のご主人よ

 そこの死体とアップル達に監禁されていたのを私達が開放したの」

「……」

「おおかた、人質を取って昼間の意趣返しでも目論んだのでしょうけど、雑魚を幾ら並べても巡業聖女の私達に敵う筈が無いわね」

「……フゥゥーーッ、君が何を言ってるのか、僕には全く理解出来ないよ?」

「あんた達は最初から、この倉庫の中に隠れて居た」

 人質を上手く使って私を始末出来れば上出来

失敗しても、自分が出る事で、どうにでも誤魔化せる

 そんな処だろう

 仮に裁判沙汰に成ったとしても、相手は貴族と元勇者だ

 元々、司法権は彼等が握っている


「良~い事を教えてあげるよ

 世の中はね?僕らが作ってるのさ」

「私も教えてやるよ

 女神様はちゃーんと見てんだよ」

 ガギンッ!!

 インテが抜き放った剣を三節根で受け止める


「ガブルン!彼を!」「ま~かせて!」

 大柄なガブリエラがラファ姉の旦那さんを担ぐと、外へと走る

 身体強化を施してる為に、雑魚に後れをとる心配は無い


 心が折れたアップル達はともかく、残った聖騎士団と自警団が一斉に武器を構え、出口を塞ぐ私へ殺到する


「ええい、鬱陶しい!ミカッお願い!」

 守護天使のミカを召還すると、彼女は空中に浮かびながら神秘的な歌声をあげ始めた

 その歌声に乗せて、精神操作の奇跡を発動させると、居並ぶ有象無象は意識を失い崩れ落ちる

「師匠に連絡して!」

「侮れ無いね、全く忌々しい!」

 インテだけは状態異常への耐性が在るのだろう、流石は腐っても勇者だ


 ギン、ギン、カンッ!

 糞が付くとは言え、騎士団を教授するだけの腕前を誇る元勇者相手に三節棍では致命傷を与える迄いかない


 しかし、こちとらゴブリンやウェアウルフの集団と独りで対峙し続けて来た

 潜ってきた修羅場の数が違う


 再び卍丸に魔力を流すと、1m程の双剣に変化させ、インテの懐へ飛び込む

 一瞬の隙を付き、顎の下の死角から頭を逆唐竹に斬り上げた

「おおっと」

 しかし、真っ二つに分かれた頭部は、勇者スキルの超回復で瞬時に復元する

「チッ!ならっ」

 袈裟懸けに振られた剣先をいなし、もう片方の剣でインテの利き腕を斬り飛ばす

 更に心臓をひと突き……ん?


「ハハッやるねぇ、ミカエラちゃん」

「マジかよ」

 斬り飛ばされた腕が握っていた剣を投げると、新しく生えた腕でキャッチしやがった

 しかも、心臓を突かれたのに平気な顔していやがる

 ヤベエな、勇者舐めてたわ


 それにしても、さっきから気に為るのが、インテから発せられるチリチリとした違和感だ

 強力な魔物が発する瘴気に似てる気がする


 奴が剣を降る度に、その殺気に瘴気が絡み付いている様に見える


「オーバークロックはね、僕の宝物なんだ

 返して貰うよ」

「卍丸はテメエは願い下げだとさ」

何合目か斬り結んだ瞬間だった

「やっほー、お待たせ」「!?」

 ズドーーーンッッ!!

 突然、倉庫の屋根からインテの身体を通り床面まで、一条の閃光が走り抜けた


「メテオ・ストライク(隕石召還)」

 私の横に師匠が居た

「師匠!?」

「遅くなってご免なさい」

 外から入って来た気配は感じなかった

転移で瞬間移動して来たのかもしれない

 師匠が内緒にしてる暗黒魔法の極意だ


 そもそも、この世界には女神様から授かる聖魔法の奇跡以外に、魔法は存在しない

 それが世界の理の筈だが、ペンティアム師匠だけは聖魔法以外に、魔物さえ使役出来る闇魔法や物理干渉可能な暗黒魔法を行使出来るのだ


 だからこそ魔王を封印出来たのだが


 因みに、今しがたインテを撃ち貫いた隕石召還魔法もそのひとつらしい

 南大陸を破壊した時には、もっと巨大な隕石だったそうだが


 身体の中心を脳天から足下まで貫かれたインテは、仁王立ちしたまま焦点の合わない眼で宙を睨んで動かない


「あれ、死んだんですか?」

「残念ね、未だ器が機能しなくなっただけよ」

「ええー」私は心底嫌なため息を吐く

  

 

 

 

  

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