第12話 綻び
動かなくなったインテの手から、長剣を取り上げると、身体が黒い靄に成って霧散してゆく
「多分だけど、コイツが本体だと思うわ」
言われてみれば、卍丸と打ち合い、鍔迫り合いしても折れて無かった
「……魔剣でしょうか?
奴の剣筋に瘴気が見えた様な気がします」
「詳しく調べてみないと分からないけど、調べるより無力化する方が先ね」
師匠は床に魔剣を突き立てると、聞き覚えの無い呪文を詠唱し始めた
魔剣を中心として魔方陣が現れ、虹色に煌めきながら徐々に回転するが、パリンッ!と魔方陣が割れ散る
まるで意思を持つかの様に浮かび上がると、倒れ伏していたアップルの目の前に突き刺さる
「しまった!?」
アップルは恐怖に顔を歪めながらも、魔剣を手にする
「あ、あ……嫌、嫌あーーーっ!!」
本人の意思とは無関係に、魔剣に操られているかの様だ
「むっ」
禍々しい瘴気に包まれたかと思った、次の瞬間、泣き叫ぶアップルの姿は笑うインテのそれに刷り代わっていた
「ミカエラ!!」
師匠の呼び掛けが終わらぬ内にインテに飛び掛かり卍丸を横凪ぎに振るったが、ふたつに分断されたインテの姿はフッと明かりが消える様に無くなってしまった
「……逃げられたか」
ペンティアム師匠は、ミカからの念話を受けるやガブリエラとラファ姉の旦那さんの元へ転移し、ふたりをラファ姉の店へ飛ばしてから、私の元へ駆け付けてくれたらしい
「先にこちらへ来ていれば……」
「いいえ、奴を倒すのは私の役目です、師匠
私が至らぬばかりに、申し訳ありません」
「それにしても、此処には面白い物が集まっているな、見ろ」
師匠が開けた木箱の中には、乾燥させた茶葉と思わしき物が詰め込まれていた
しかし、良く観察すると、微かに瘴気が感じられる
「コイツをお茶として飲んだり、煙草にして吸う事で、徐々に身体と精神を瘴気に蝕まれ、最後には正気を失うだろうな」
「奴は違法薬物と言ってましたが、本当だったのですね」
「恐らく依存中毒性も高いだろうな
私がガブリエラを呼んだのも、聖騎士団に任せていた東部の様子が、気になったせいだ」
自警団や聖騎士団ぐるみで隠蔽してしまえば、瘴気や魔物の被害も無い事で済まされてしまう
勿論、東部を管理する貴族のパワーマック伯爵も例外では無かったと言う訳だ
この一件で、聖騎士団を解体させるのは簡単だが、瘴気の影響で犯罪多発地帯に成ってしまった東部の治安回復をどうするかが問題だ
それに貴族の間にも相当汚染が拡がっている事が懸念された
彼等は既得権益を守る為に、聖教会と大司教に責任を押し付けてくるだろう
勿論、聖教会内部も一枚岩では無い
稀代の天才少女ウリエラを聖女に推薦する際、若過ぎるとか、前例が無いからと反対した前教皇派と、腐敗が目立つ様になった教会内部の改革を謳った現教皇派の対立は、ウリエラによって得られる莫大な利益を巡り、激しさを増していた
「聖都は巨大な魔方陣だと教えたわよね?」
「聖都に集まる人々の信仰心で魔王の封印を維持してるのですよね?」
「そう、……だからこそ、私はウリエラを中央本部の聖女に選んだのよ」
「ウリエラを封印の剣と言ったのは……そう言う意味でしたか」
しかし、今や東方支部教会の聖女は不在で、代わって治安維持を担う筈の聖騎士団もインテの策謀により機能しておらず、魔王封印の魔方陣は不完全な物になりつつ在る
まさか、奴はそれを狙って……?
インテの真の目的は、魔王の復活?
しかし、勇者がそれを?何故????
…………
………………
「難しい事考えるのは、私の役目じゃ無い!
奴が現れたら私がブッ殺す!!
それで全て解決!オッケー!モーマンタイ!」
「……凄く爽やかな笑顔で吹っ切れたわね」
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