第23話 東部戦線異常ナシ
教皇ミレニアムが率いる近衛騎士団が東方支部教会へ向かう為、大通りを進むと、次から次へと武器を持った暴徒が襲い掛かって来る
「聖下!お下がりください!我々がお守り致します!」
「何を言うか、総員抜剣!賊徒を討ち払え!!」
「「応ッ!」」「突貫!!」
ミレニアムが先陣を切り、暴徒の群れに突っ込んで行くと、近衛騎士団も負けじとそれに続く
魔薬により正気を失った暴徒は、板切れや石ころを獲物とした平民が多い様だが、甲冑を纏った騎士団相手に怯む事無く殺到する
手足を切り落とされ、腸がまろび出ても、構わず襲い掛かって来る
今時の映画で言えば、哀れな被害者にゾンビが群がる様な感じである
事実、武器を持たぬ暴徒の中には、投石や噛み付きで攻撃して来る者も居て、噛まれたり傷を負わされると、傷口から瘴気が感染すると言う、正しく阿鼻叫喚の地獄絵図であった
投石と言うのも、馬鹿には出来なく、当たり所によっては死亡する事も有るが、二百名の騎士団は数千にも及ぶ狂気の集団に敢然と突っ込んで行く
しかし、圧倒的な武勇を誇る近衛騎士団も、流石に足を停められてしまった
通りを埋め尽くす群衆に、四方八方から包囲されてしまう
騎馬での突撃と言う、アドバンテージを失うと、そこかしこから負傷者が出始める
東方支部教会迄は、未だ十数キロ先だ
馬を走らせられれば、ほんの数分の距離が、果てしなく遠く感じる
(くっ、一旦引くか?いや、状況が悪過ぎる)
ミレニアムが状況を確認しようと、後方を振り返ったその時、群がる群衆の頭を乗り越えて、狂気に取り憑かれた幼い少女が喉元目掛けて噛み付いて来た
「うぐっ!?」
咄嗟に斬り捨てようと、剣を振りかぶったが、あまりにも幼いその姿に、一瞬、躊躇ってしまう
その腕に、頭に、身体ごと雪崩れ来る暴徒の波に、遂には落馬させられてしまった
「聖下ッッ!?」「聖下をお守りしろ!」
すかさず他の騎士達がミレニアムを守ろうと、円陣を組むが、落馬の際に肩を痛めてしまった
これではまともに闘えない
(何と言う事だ!この私が油断したのか?)
襲ってきた少女は、既に他の馬に踏まれ絶命していた
政治的立場上「教皇」を名乗っているが、ミレニアムは聖魔法を使えない
例え聖職者であろうとも、女神様の寵愛を受けた大司教と聖女以外は、聖魔法の奇跡を発動させる事は出来ないのだ
(何が教皇だ!あんな幼子ひとり救ってやる事も出来ずに、友人も、自分の身すら守れずに!?)
「撤退する!一度退き、体勢を整える!」
「はっ!」
仲間の手を借り、何とか騎乗出来たミレニアムは撤退を指示するが、正直、総崩れになっていないのが不思議な程の状況だった
「重装騎兵は殿を!直衛部隊は聖下をお守りしろ、残りは何としても、血路を切り開くのだ!」
騎士団長が激を飛ばすが、既に絶望的な状況なのは、誰の目にも明らかだった
その時、歌声が響き渡った
厳かで、幽玄ささえ感じさせる調べに、思わず顔を上げると、頭上に天使が居た
燃え上がる黒煙の隙間から射し込む陽の光りに照らされ、背中の羽が光り輝き、神秘的な後光が辺りを支配する
と、どうした事か、ミレニアム達に殺到していた暴徒の群衆は、糸の切れた人形の様にその場に崩れ落ちた
聖女ウリエラの守護天使ウリエルが、歌声にウリエラの精神操作の聖魔法を乗せて、数千にも及ぶ暴徒の群を眠らせたのだ
とんでもない魔力量である
ウリエラの類い希な才能を見極めたミレニアムが、教皇の座を賭けて彼女を推薦したのだが、まさか、これ程とは思わなかった
更に、頭上の天使が両腕を胸の前で交差させ、祈りのポーズをとると、見る間に傷が回復した
「おお、聖女様の奇跡だ!」
「助かったのか?」
(ありがたい、ウリエラに感謝せねばな!)
「聖女ウリエラの奇跡に依り、道は開けた!
総員、東方支部教会へ急ぐぞ!」
ミレニアムは平静を努めて騎士団を東へ進める
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