第9話 踊る天使達


 「ふぃ~~」


 神殿内大浴場の湯船に肩まで浸かると、思わずオヤジ臭い言葉が出てしまう


 昼間はとんだ余興(アクシデント)が有ったが、久し振りに三聖女が顔を合わせたのだからと


「折角ですからパジャマパーティーをしませんか?」


 と、ウリエラが言い出した


「あ、じゃあラファ姉のお店で夕食済ませるってのは、どうよ?」

「あら、良いじゃない」

「わあっ、四人で仲良くお食事なんて、何年ぶりでしょうか」


 ラファ姉が一緒に食事出来るかどうかは、分からないが、顔合わせて話しくらいは出来るだろう


 それにしても、こうして裸の付き合いをしてみると改めてガブルンのバストは凄いわぁ

 湯面に浮いてる様は、二つの巨大なスイカよね

 と言うか、凶器よ凶器

 撲殺、悩殺、窒息死、圧迫死……


  間違いなく人を殺せるわ

 一体、何キロ有るのかしらね?


「うひゃいっ!?」


 ガブルンの胸をガン見していたら、後ろからウリエラが私の胸を揉んできた


「ちょ、ちょっとウリエラ?

 なにやって……あぁんっ!」

「心配しなくても、こうして揉むと大きく成るんだって大司教様が仰ってましたわ、お姉様」

「はああっ!?」

「あらあら、これは眼福」

「見てないで止めっイヤンッ、そこはダメぇ!」


 一時間後

 真っ赤にのぼせ上がった私とウリエラとガブルンの三人は、ラファ姉の居る居酒屋に顔を出した


「ラファ姉~ちょっと早いけど、もう良いかな?

 三人なんだけど?」


「あら、いらっしゃいミカエラ!

 どうしたの?顔、真っ赤よ!?」

「こんにちわ~!」

「おひさ~元気だった?」


「まあ、珍しい顔ぶれねぇっ?

 ガブリエラは五ヶ月振りじゃないかしら」


 入口から次々と顔を出す面子に、ラファ姉も久し振りの四人揃っての再開を喜ぶ


 カウンターから出てきたラファ姉のお腹は、もうかなり目立つ位に大きく成っていた


「わあ……この中に赤ちゃんが居るんですよね」

「ふふ、予定日はもう少し先なんだけどね」


「…………ずるい」

「はい?」「何か言った?ミカエラ?」

「ラファ姉は私の仲間だと信じてたのに、こんなにオッパイ大きくなって!

 私だけ置いてけぼりにしないでよ!」

「ええー?なに?もう酔ってるの?」

「あー、いや

 今日はちょっとテンションがおかしくてね、この子」

「お姉様は行き遅れを気になさっておいでなのですよ?」

「まだ行き遅れて無いわよっっ!ただちょっと男に縁遠いってだけで……うう、自分で言ってて虚しくなってきた、ラファ姉、ビール!!」

「私はオレンジジュース!」


 ウリエラは未成年なのでお酒は飲まない

 真面目な子だから、もしかしたら大人に成っても飲まないかもしれない


 暫く楽しく会話が弾んでいたが、教会の鐘が鳴り響き夕刻を伝える

 仕事を終えた人々が家路を急ぎ、或いは一時の憩いを求めて酒場へと繰り出す


「そう言えば、旦那さんは?顔見ないけど?」


「仕入れに出掛けたんだけど、ちょっと遅いわね……何か有ったのかしら?」


 貴族御用達の様な大きなレストランや宿屋では、食材などは専門の業者が毎日配達してくれるのだが、ラファ姉の居酒屋みたいに小さな店では、自分で市場まで仕入れに行って経費を節約するのが普通だ


 しかし、そろそろ他のお客さんもやって来る時間帯なのに、確かに遅い

 ラファ姉は仕込みの手を止めてエプロンを外すと店の外に出て通りを伺う


「ごめんねぇ、折角来てくれたのに

 ちょっと探して来るから待っててくれる?」


「なら私が行くよ」

 五本目の大ジョッキを一気に飲み干すと、立ち上がり

 「ラファ姉は大事な身体なんだし、ここで旦那さんを待ってて

 行き違いになっても困るしさ」


「でも……」

「良いって良いって、ウリエラは何かあったらいけないからラファ姉についててあげてくれる?」

「任せてください、お姉様!」


 私に頼られたのが嬉しいのか、フンスと笑顔で力こぶを作ってみせるウリエラ……可愛いわね


「アタシも行くよ

 双手に別れた方が早いでしょ」

 ガブリエラもワインを一気飲みすると店から出てきた


「じゃあ、お互いに先に見付けたら天使を召還して連絡し合うって事で良いわね?」


 電話も無線も存在しないこの世界では、直接顔を合わせるか、手紙でしか連絡を取り合う手段は無いが、私達聖女は召還天使の能力で、どんなに離れて居ても念話による連絡が可能なのだ


 (まさかとは思うけどね……)


 聖騎士団の連中が昼間の腹いせに、嫌がらせを仕掛けるとしたら、私が懇意にしてるラファ姉を狙うってのはあり得ない話しでは無い


 聖王国再建にあたって、勇者インテの手で聖騎士団が再編成された時、主要メンバーは殆どが貴族の女子ばかりで揃えられた


 それまでの騎士団が魔王封印戦争で、ほぼ壊滅状態だったし、復興の好景気も後押ししてさほど問題視されず、寧ろ聖都に華を添える存在として民衆にも受け入れられた経緯が在る


 周辺国も戦争どころでは無く、騎士団がお飾りでも問題無いとされたのだ


 だが、貴族の血筋だけで構成された為に賎民意識が強く、女神様への信仰心に差別が有ってはならないとする聖教会とは相性が悪くなってしまっていた

 更に、貴族間の家柄で優劣が決められている為に、本人の実力に見合わない役職に就いていたりする

 王弟のドス公爵令嬢のヴィーが聖騎士団副長だったりするのも、その辺のしがらみだろう

「剣聖」を自称してるが、実力は甚だ疑問だ


 闇雲に走り回らず、目撃情報を集めて回っているのだが、段々と市場から離れて聖都中心部の貴族街へと向かっている気がする

 (悪い予感……当たらずとも遠からず、かな?)

「ミカ、お願い!」

守護天使のミカを召還すると、ガブルンに念話を送り、合流を促す


 貴族街は普段は平民が立ち入る場所では無い

逆に、出入りの業者に問えば見慣れない平民は目立つもので、難なく行く先の見当は付けられた


「ここって……」

「ええ、パワーマック家の倉庫よね」


 あの糞アマ、負けた腹いせに親に泣きついて仕返ししようって魂胆か


 上等だよ

 神様に喧嘩吹っ掛けた事を後悔させてやる 

 

 


 

 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る