第17話 シスターだって懺悔したい


数十年前の魔王封印戦争の後、教会の役割は単なる信仰の対象では無く、魔王封印の鍵となる重要な存在へと変わりました


 宗教が精神的な心の依り処から、現実の脅威から身を守る為の存在に切り替わったのです

 聖教会の権威は飛躍的に上がり、遂には魔王封印の真上に聖王国を立ち上げてしまった程


 その立役者は、言わずと知れた「聖剣の勇者」インテ様と、「聖光の大賢者」ペンティアム様


 人類の滅亡を防ぎ、魔王を封印した、女神様に愛された奇跡の魔導士

 

 人智を超えた魔導の力に依り、遥か天空の月まで破壊した規格外の魔女


 生きとし生けるもの全てが、避けられぬ筈の「老い」をも克服してみせた叡智


 どこまでが伝説で、どこまでが真実なのかは知るべくもありませんが、彼女は教皇様に依り「大司教」として任命され、更に聖都を護るべく「巡業聖女」を産み出しました

 聖教会に勤めるシスターから選ばれる、女神様の寵愛を頂いた特別な存在


地方を廻り「聖魔法」を行使し、守護天使を使役し、邪を払い、瘴気も魔物も屠り去り、民を護る新たな英雄


 聖女ラファエラは、東方支部教会所属のシスターでした

 黒髪に黒目の、東方出身の少し地味な感じのするシスターでしたが、大司教に認められ聖女の試練を超えました


 聖女ガブリエラは、南方支部教会所属のシスターで、やはり南方出身の赤毛に小麦色の肌が特徴的な「外部」の人間です


 三人目に聖女と成ったのは、なんと教会本部前に捨てられていた赤子を、大司教自らが慈しみ育て上げたのだと言います

 西方砂漠の民に多い、銀髪の目付きの悪い蛮族で、ミカエラと名付けられました

 聞くところに依ると、素行も大変悪く、毎夜の様に浴びるほど酒を飲んでは暴れているそうです

 とても聖職者とは信じられません


 そして、中央聖教会本部からも、史上最年少で試練を超えた天才少女が聖女と成りました


 聖女ウリエラ

 巡業聖女とは成れませんでしたが、素晴らしい治療の奇跡を施し続ける、まさしく聖人の見本と言えます

 信者からの信望も厚く、人気も高い

 彼女が聖女と成って、教会の台所事情が飛躍的に改善されたとか


 聖女とは、女神様の寵愛を受け、特別な力を以て人々を護る存在なのです


 聖女の試練に合格すると、大司教からホーリーネームを頂戴します


 それだけ神聖で崇高な存在なのです


 それなのに、あろう事か東方支部教会の聖女ラファエラが一般人と結婚して引退しました

 なんと言うフシダラな!

 考えられません!


 まあ、そのお陰で私にも聖女の試練に挑戦するチャンスが回って来たのですが……


 聖女見習いとして、ここ数ヶ月

 大司教様の元で学び、功徳を積み頑張って来たのです

 やはり、聖都を護るのは聖王国出身の純血であるのが筋と言うものではないでしょうか


 きっと女神様も、それを望んで居られるに違いありません


 …………あぁ、いけません

 少し我欲が入ってしまいました

 後で、こっそり司教様に懺悔しましょう

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る