第3-6話:なんのために

 チーム「ガニュメデス」のメンバーと、ジル、マルガリータが集められた。

 情報軍士官のツェレルが状況を説明する。


「惑星ストルミクに、我々の仲間が幽閉されている。

 ガニュメデスには、幽閉されたナハトを、救出してもらう」


 おなじみの「銀河系を上から見た図」。

 ペルセウス腕の中ほどに、ストルミク連邦がある。

 その中の、惑星ストルミクが拡大表示された。


「オストロミルという企業の造船所だ」

 造船所と言うが、山の上にある。

「現在のオストロミル社の事業は宇宙船の建造で、生産ラインも宇宙にある。

 造船所と呼ばれているが、実質は開発拠点だ」


 大陸での位置が分かるよう、画面が一度ズームバックする。

 再びクローズアップすると、周囲の地形や道路の様子が表示された。


「ストルミク政府に話はつけてある。

『誘拐された可哀そうな帝国市民ほしのひとを救出する』ということになっているので、全面的に協力してくれることになった。


 周辺の封鎖や情報操作を、地元の警察機構が担ってくれる。

 ただし救出そのものは、我々自身でやる。

 作戦名は『オストロミル救出作戦』だ」


 何のてらいもない、素直な作戦名。星の人らしいとタカフミは思った。


「ありがとうツェレル」

 マリウスが説明を引き取った。

「ツェレルは救出と言ったが、これは実質、拉致作戦だ。

 ナハトは、我が国の機密情報を流出させている、犯罪者だ。

 この人物を、生きた状態で確保する。これが今回の目的だ。

 隠密に行動する。艦艇およびMIによる支援はない」


          **


 チーム「ガニュメデス」は、エスリリスに搭乗して、オラティス星系に向かった。

 星の人がやって来たと分かれば、ナハトは再び移送されるか、最悪、殺害されるかもしれない。

 なので、身分をオラティス人と偽って、入国する。


 マリウスは、チームの作戦準備を、司令室で行った。

 艦長のステファンは「マリウスが片付けなかったから、誰も使えなかったよ」と笑った。ちらかっていた。多数の空中ディスプレイが、表示されたまま放置されていた。



「タカフミ。確認しておきたい」

 マリウスはタカフミを司令室に呼ぶと、自分の横に置いたスツールを勧めた。


「危険を伴う任務だ。それでもいいのか」

 タカフミは、頷いた。

「自分の任務は、星の人と銀河系の情報収集です。

 もっと安全な方法も、あるでしょう。

 それでも、司令と一緒にいたいのです」

「もう司令じゃない。マリウスと呼んでくれ」

「マリウスと一緒にいたい」


 マリウスは、無表情に、首だけかしげて見せた。

「なぜ一緒にいたいんだ?」


「初めて会った時から、気になっていたからです」

「雛が親鳥になつくようなものか」

 タカフミは苦笑した。

「男というのは・・・女の人を追い求めるものなんです」

「ふうん」


 沈黙。会話が途切れた。


「それだけですか!」

「うちの国に男はいないからな。コメントしようがない」


 タカフミはこめかみを押さえた。

「あの! 前から気になっていたんですが。

 どうやっているんですか? そのう、次の世代をですね」

「言っただろう。病院に行くんだ」

「そのやり方、いつからですか?」

「最初からだ」

「最初!?」


「士官学校で、少し詳しい歴史を習う。

 我々の歴史は、始発駅の建設から始まる。日報が残っているんだ。

 その中に、今年は何名出産させる、という記述もある。

 全て計画的なんだ」

「星間技術も、出産の方法も、最初から持っていた、ということですか?」


「マルガリータによると、我々は『創られた集団』らしい。

 銀河ハイウェイの建設のために、設置されたんだ。


 ミツバチのようなものさ。資源を集めて、駅を作る。

 非力な働き蜂だ。だから、

 身を守るために作ったんだ、兵隊蜂を」

 右頬を撫でながら、視線を逸らせた。


 それから、タカフミに視線を戻す。

「女なら誰でもいいのか?」

「そんなことはありません!」

「おっぱいが大きいのがいいのか?」

「まさか! それならマリウスを・・・うっ」

 慌てて口を押える。マリウスは無表情で凝視していた。


「気になったからです。

 マリウスの生きる道が、戦いだけと聞いて」

「実際そう思っている」

「それを変えるべきなのか。そもそも変えられるのか、分からない。

 でも、見届けたい、マリウスの生き方を見たい。

 身の程知らずかもしれないけれど、マリウスを、支えたい。

 そう思ったんだ、心の底から」

 少年のような肢体を見つめる。


 マリウスは立ち上がった。

「君の手術を、止められなかった。

 勝手に手術したことを思うと、胸が苦しくなる」

 そして、胸元に押し付けるように、タカフミの頭を掻き抱いた。


「マリウス」

 おずおずと腰に手を回す。拒否されなかったので、抱きしめた。

 無言で、その体勢が続く。


 静寂の中で、エスリリスだけが見ていた。

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