【幕間2】エスリリスとカーレン

「これは危険な状態では?」

 エスリリスは、カーレンに、ビデオ通話で呼びかけた。



 エスリリスは、戦闘艦を制御するMI(機械知性体)である。

 艦体は強襲降下艦。機動歩兵を運搬し、地上に展開させるのが任務である。

 いざとなれば、大気圏に突入し、接岸上陸(陸地に着陸して兵士を下ろす)も行う。

 そのために、非常に頑丈に出来ている。外観は凹凸のない、すっきりした紡錘形。漆黒の剛性構造体。全長300メートル。

 ビデオに現れた対人用アバターは、銀の短髪で不機嫌な少女。それが今は、心配そうな顔つきをしている。


 呼び出されたカーレンは、建設母艦のMI。艦体は直径25キロメートルの円盤型である。工場や多数の作業船を抱えているので、都市のように巨大だ。

 性格は、人命尊重・安全第一の設定で、いたって穏やかである。



「あら、どうしたの、エスリリス」

 優しいお姉さん風のアバターで、カーレンは問いかけた。


「乗組員0004が、うめき声をあげているんです」

「マリウスが? 嫌なことでもあったのかしら」

 右腕を失う重傷を負ったのに、あまり心配されていない。


「そんなことで、いちいち相談しません。

 気になるのは、個体T0001-です」

「タカフミがどうかしたの?」

「個体T0001-が部屋に入ってから、うめき声が始まったんです」

「ほ、ほう?」

「しかも、乗組員0004が、痙攣してます」

「それ、いつの話?」

「今ですが」

「映像送って! 大至急」



 カーレンは、100万マイクロ秒(1秒)という、MIにとって永遠にも等しい時間をかけて、じっくりと動画を見た。

 そして、ふぅ、とため息を吐くと、言った。


「これは、放置していいわ」

「しかし。0004は痙攣してます。危険な状態なのでは!?」

「戦闘艦のあなたには理解しがたいでしょうが、これは問題ないの。

 首を突っ込まない方がいい」

「なぜ個体T0001-が一緒にいると、発生するのでしょう?

 排除しなくてもいいですか?」

「いいの。いまはまだ白だから。

 でも、おかしなことがあったら、すぐ知らせてね!」



♡*♡*♡*♡*♡*♡*♡*♡*♡



「痛覚抑制しちゃだめなのか?」

「ダメです。力の入れ過ぎで痛めてはいけないですから。

 ちゃんと感じてください」


 足つぼを押した。

「あああああ!」

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