第5-4話:温もり

 造船所を脱出した後、チームガニュメデスの一行は、エスリリスで帰途に就いた。

 ナハトを確保したので、星の人は公然と、艦艇をストルミク星系に進出させたのである。


 タカフミが司令室に入ると、マリウスは空中ディスプレイを眺めながら、肩を動かしていた。


「肩が痛いんですか?」

「今は痛覚抑制で平気だ。朝、痛みを感じたんだ」


 マリウスは毎朝、痛覚抑制を解除して、自分の身体を点検している。

 怪我に気づかず、放置したことが、過去にあった。

「痛みは警告だからな。ちゃんと対処しないと」


「ちょっと失礼」

 タカフミはマリウスの後に回った。首筋や背中を眺める。

「姿勢が少し傾いているようです。それで、肩がこるのかも」

 腕一本で約3キログラムある。急になくなると、どうしても姿勢は乱れる。


「差し支えなければ、肩、もみますよ」

「うん。では、お願いする」

「強すぎると痛めるので、痛かったら言ってください。

 あ、痛覚抑制は切ってください」


 タカフミは、マリウスの髪を軽くまとめると、身体の前の方に垂らした。

 両手をこすり合わせ温めてから、うなじに触れる。


「ここに来たのは、何かあったのか?」

「ブリッジに連絡がありました。

 右腕はあと三日で、拠点惑星に届くそうです」


 便利ですね、という言葉を、タカフミは飲み込んだ。


 首筋を揉んでいると、右肩が動いた。

 腕がないことを思い出して、動きが止まる。


「何か、気になることでも?」

 マリウスは、遠くを見るように、視線を上げた。


「私は、最強ではなかった」

「ミランダには、勝ったじゃないですか」

「ミランダは、レーザーカッターを知らなかった。

 武器が同じなら、敗れていた」


「でも、こうして息をしているのは、マリウスだ」

「一対一で、勝てなかった」


 マリウスは首をめぐらして、タカフミを見た。

「敵を倒した時だけ、身体が熱くなって、生きているという実感が湧く。

 自分が銀河系で最強だ、という確信が、心の支えだった。

 ・・・今は、何を拠り所にすればよいのか、分からない」


 タカフミは、肩から下に手のひらを移し、背中を押す。

「黄衣の人は、どんな気持ちで生きているのかな」

「黄衣の人? ああ、あの方か。

 そうだな。今度、聞いてみる」


 タカフミの指が肩に戻ると、左手でタカフミに触れた。

「タカフミの手は、温かいな」

 そのまま、無言で、手のひらを重ね続けた。


「他にも痛い所はありませんか?」

「そうだな・・・」

 左手を下ろすと、自分の身体に意識を向ける。

「足も、むくんでいる気がするんだ」

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