第1-6話:アジワブ社
人型ロボットの商品カタログが表示された。
ツェレルがページをめくっていく。
「接客用ですか?」
「そう。オラティスの店舗で見かけるようなものです」
様々な制服を着用した写真が並ぶ。「利用シーン」の紹介のようだ。
タカフミの脳裏に、バーテンダーの姿がよみがえった。
銀河ハイウェイの駅にあった「黒曜石」という店で、給仕していた。額に三角形のパネルが光り、一目で人工物と分かった。
一方、こちらのロボットは、人間にしか見えない。
人間を商品扱いしているようで、タカフミは気分が悪くなった。
女性の写真しかないことにも、タカフミは違和感を覚えた。店舗スタッフなら、男性も女性も、いるんじゃないか??
「ぶっ!?」
いきなり、大量の肌色が目に飛び込んできて、タカフミは噴いた。
製品の「外観」を確認するための、緻密な前面図と側面図が続く。
「人体のリアルな再現が、アジワブ製品の特徴なんだそうです」
「オラティスのロボットは、首から下は普通に機械ですからね~」
「リアルだと何がいいんだ?」
ツェレルは、ちょっと困ったような顔をした。
「精密なロボットを持つことが、社会的なステータスになるらしいです。
富裕層が購入しているので」
いや、それはきっと違う――タカフミはそう思ったが、星の人に上手く説明する自信が無かった。
「にしても、本物みたい。これがロボットなの?」
マルガリータが、カタログをのぞき込んで聞く。
「筐体はほぼ、有機物です」
「まさか、人間そのもの!?」
「内臓や制御部品は違う。でも、表面はほぼ人間と同じ。
この製造に、我が国の生命工学が使われている。
負傷した兵士の、四肢や目を培養再生する技術が、流出しているのです」
ツェレルはカタログを閉じた。
「ストルミクでは、人型ロボットに反発する声があがっています。
人間の労働と尊厳を奪う、という理由。
利用にも制約があるし、人間が一緒でないと、移動できないです」
続いて、別のレポートを開いた。
「もう一つの事業が、人間の能力強化です。
こちらは非合法で、当然ながらカタログの類はない。
我々も概要しか知りません。
2種類あります。
一つは強化人間。早い話が、身体の機械化。
我々の義肢技術がベースになっているらしい。
もう一つが、拡張認識。こちらは、脳の強化です。
身体を制御する感覚野・運動野を、外部のデバイスと接続する。
例えば、一人で10台のカメラを同時に監視できる、といったものです。
既存の知覚を犠牲にするので、10個が限界らしい」
「それも我々の技術なのか?」
マリウスが、身を乗り出して、尋ねた。
「人体実験は禁止されている。研究できないはずだ」
「今はね。人体実験も、人体改造も禁止されている。
特に脳への干渉は厳禁。
でも、過去には行われていた。
その研究結果が、持ち出されたのです」
**
「どれも、星の人にとって重要な技術なんですね?」
「特に身体の培養再生は重要だな。思い切り戦うために」
星の人は、四肢の欠損を恐れない。生きてさえいれば、治してもらえるからだ。
それにより、思い切った(無茶無謀な)作戦行動が可能になっている。
呑気そうに見える星の人だが、敵に回したら、恐るべき存在なのだ。
生命工学は、
「マリウスと、あとタカフミは、オラティス人に化けてもらいます。
オラティスは同盟国です。ちゃんとしたパスポートも用意してくれます。
問題は、どのようにアジワブ社と交渉するか、ですね」
「オラティスと言うと、駅でいろんな店を出していた人たちですね?」
「そう。オラティス人は商業国家です。銀河ハイウェイを通じて幅広く交易しています。お願いすれば、大体のことは聞いてくれます」
もう一度、バーテンダーの姿を思い浮かべたところで、タカフミは閃いた。
「額に三角形をつけたら、マルガリータもロボットってことになりませんか?」
「ロボットの登録証を発行してもらって、あと立ち振る舞いに気をつければ、誤魔化せるかも」
「オラティス人も人型ロボットを造っているので、何らかの『共同開発を行いたい』と言ったら、研究所を訪問できるのでは?」
「そのサンプルとして、マルガリータを『持ち込む』わけね」
ツェレルがうんうん、と頷く。この案は気に入ったようだ。
タカフミはマリウスを見た。マリウスも頷いた。
「それでいこう」
マルガリータを見ると、手元のディスプレイで「ストルミク食い倒れ紀行」を開いていた。もう心はストルミクにいるようだ。
「では、急いでオラティスの拠点惑星に移動しましょう。
マリウスは男、マルガリータはロボットとして、書類データを手配します」
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