【幕間1】エスリリスとカーレン
「ちょっと聞きたいことがあるんです」
エスリリスは、カーレンに、ビデオ通話で呼びかけた。
エスリリスは、戦闘艦を制御するMI(機械知性体)である。
人間とコミュニケーションするためのアバターは、白い肌に銀の短髪。
無表情、というよりやや不機嫌そうな顔つきをしている。
一方のカーレンは、建設母艦のMIである。
アバターは、黒髪を三つ編みに垂らした、優しいお姉さん、という感じだ。
銀河ハイウェイの駅を造っている。稼働1000年のベテランだ。
建設母艦は、とても大きい。
巨大な艦体をワープさせるために、カーレンは膨大な処理能力を持っている。
この処理能力は、通常航行時は余りまくるので、仕事をしながら娯楽チャネルを観ている。銀河系の主要チャネルはすべて、リアルタイムでチェックしている。
さらに、MIであることは隠して、娯楽チャネルのブログも書いていた。
情報が早い上に、レビューも的確、出演者や制作のゴシップも網羅していて、とても人気がある。
つまり、非常に人間のことに詳しいMIなのである。
「エスリリス、もっと愛想よくしないとだめよ」
カーレンは「困った子ね」という感じで苦笑した。
MI同士の通信なので、本来はデータだけで成立するのだが。
カーレンの強いこだわりで、アバターを介しての会話となっている。
「別に困りません」
エスリリスはぶすっとしている。
戦闘艦制御用なので、愛想は必要ない。
でも初期アバターは可憐だった。少し不安げな少女、という感じだった。
だが、人間たちの不可解な言動を度々目の当たりにしたことで、アバターには余計なテクスチャが重ねられ、今ではすっかり目つきの鋭い、とげとげしい女性に変貌してしまった。
カーレンは、ビデオ通話を通じて、エスリリスの心を解きほぐそうと、密かに決意していたのだ。
**
「それで、どうかしたの」
「人間が、理解できずに困っているんです」
すかさずカーレンの指導が入る。
「はい、そこでため息を吐いて」
「はぁ~」
顔をしかめて、ため息を吐いてみせた。
息を出すだけのマリウスより、よほど自然に見える。
「うん、上手上手♪
で、どうしたの?」
「実は、
乗組員0004と個体T0001-が、
司令室で、
ずぅっーと、抱き合っていたんです」
「な、なんですって!?」
カーレンは、目を見張り、口を手で隠すようなリアクション。
それをエスリリスは憮然と眺めていた。
「ずぅっーと、ってどのくらい?」
「1億2千マイクロ秒です」
2分である。
「そ、その間、手とか足は動いていたの?」
「いえ、静止していました」
「顔は?」
「個体T0001-が、顔を乗組員0004の胸にうずめていました」
「映像送って!」
星の人にもプライバシーの概念はあるが、MI同士でデータをやり取りすることには(機密情報を除いて)何の制約もなかった。
カーレンは、送られた映像を、穴が開くほど眺めた。
「個体T0001-は、頭に怪我でも負ったの?」
顔をあげて、エスリリスに尋ねた。
「詳しくは知りませんが、頭部を手術したそうです」
「なるほどね」
カーレンが頷く。
「この行動に、何の意味があるんですか?」
「乗組員0004は、T0001-の頭を気遣っていたのよ。
人間はね、相手を気遣う時に、身体接触することがあるの」
エスリリスは、納得しなかった。
「T0001-は、0004の胸に顔をうずめています。
でもなぜ、腕を突き出した状態で、止めていたんですか?
なぜ、その後から、0004の腰に触れたんですか?
なぜ、1億マイクロ秒以上も、静止してるんですか?
この人たち、その間、何のタスクも行っていないんですよ!?」
最後の方は怒りがこもっていた。
「ふふっ」
カーレンは含み笑いを漏らした。
そもそも乗組員0004の胸には、顔をうずめるほどの起伏は無いのであるが。
そのことは、突っ込まずにおこう。
「いいこと。これはね。
新しいドラマが、幕を開けようとしているのよ」
「ドラマ、ですか?」
娯楽メディアを見ていないエスリリスには、ピンとこなかった。
「ま、この段階では、どうなるか分からないけどね。
脈はあると思うわ」
そしてカーレンは、ビシッ! とエスリリスに向かって指を突き立てた。
「ということで、
何か気になることがあったら、すぐに知らせて!
映像も都度、送るように。いいわね!」
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ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
はたしてエスリリスは、人間の営みを理解できるのか!?
本編・幕間とも、引き続きのご声援★♡、宜しくお願いいたします!
m(_ _)m
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